「昔から他人の試合を見るのが好きでした。(得意の内股も)見よう見まねからです。受けも自然に身につきました。そういったバランスの部分はいいほうかなと。感覚的な部分が大きい」
受け答えも自然体。記者から「派手でない柔道」、つまり地味だと言われたって、いなしていた。
重量級はどうか。好調なのは米国出身の父親を持つ90キロ級のベイカー茉秋(ましゅう)。東海大学の学生だ。熾烈な代表争いが終わった直後、世界ランキング上位の選手で争う5月の「ワールドマスターズ」では、不覚を取る代表選手が続出したが、ベイカーは優勝。重量級の先陣だけに、期待がかかる。
テレビの前で現役時代の井上康生の内股を見て憧れた小学生も、リオ代表の中にいる。100キロ級の羽賀龍之介だ。
右ひざ内側のじん帯を部分断裂し、最終選考となる4月の選抜体重別選手権を欠場するなど一時不安な時期はあったが、予後は順調。延岡合宿もスペインの国際合宿にも参加し、力強い稽古を見せている。
実は父親も同じく柔道の元五輪候補だった。得意技は自分と同じ内股。「当時のビデオを見てもよく似ています。父の内股に対する憧れがあった」と羽賀。内股歴はざっと22年。柔道の軸と自信は内股にある。初の五輪の舞台だが、無用な恐れは感じていない。
「五輪が近づくにつれて本当に別物だなと思います。ただ、魔物はいないんじゃないですかね。やっぱり練習している人が勝つし、それなりに賭けている人が勝つ。準備段階で(勝負は)けっこう決まっているんじゃないですか」
100キロ超級の原沢久喜にも期待がかかる。最重量のこの階級の座はかつて、日本の指定席。だが今はリネール(仏)が君臨する。
そんな「JUDO」に抑え込まれている現状を、日本勢は破ろうとしている。日本人で唯一、リネールに黒星をつけた上川大樹は練習で原沢に胸を貸し、今回代表の座を原沢と争った七戸龍は国際合宿でリネールと手合わせし、気付いた点をコーチに伝えているという。
さあどうなるニッポンの柔道。60キロ級高藤が出陣する初日は6日、100キロ超級の原沢が登場するのは最終日の12日。(本誌・松岡かすみ、太田サトル、鳴澤大、亀井洋志、吉崎洋夫/黒田朔)
※週刊朝日 2016年7月29日号