
日本を代表する名作家・劇作家、故・井上ひさし氏の三女で、劇団こまつ座の経営を引き継いだ妻・井上麻矢さん。夫でNHKの報道プロデューサーだった小宮山忠雄さんとは19歳の時に出会った。その後、20年近く会うことはなかったが、父・井上ひさしの死が二人を引き合わせたという。
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夫:ニューヨークの同じマンションに同僚夫妻が住んでいて、その奥さんに簡単な和食を教わったりしてね。それが結構楽しくて。帰国後、母に食べさせたら「おいしい」って喜んで。それ以来、母は自分で料理をしなくなって、母の食事も僕が作ることに。そんなある日、テレビを見ていたら、井上ひさしさんが亡くなったという。さて、麻矢さんはどうしてるんだろうと思ったら、こまつ座代表として彼女が会見してる。いや、驚きましたよ。
妻:それですぐ、連絡をくださったんですよね。
夫:こまつ座に手紙を出しました。よかったら話を聞かせてくれないか、と。
妻:約20年ぶりの再会でしたけど、やっぱり私にとっては雲の上の人。ただ、父のお別れの会を開くことになって、NHKから映像をお借りしなきゃいけなくて。その手配に、彼に力添えしてもらったり。そこからですね。個人的に連絡を取り合うようになったのは。
夫:何度か会ううち、彼女が大変な苦労をしてることを知って。
妻:よく電話をくださるし、食事にも誘ってくださるようになって。よくしてくれてありがたいなあ、と思ってたんです。ある時、彼から「どうしてそんなに働くの?」って聞かれて。
夫:そうだったね。
妻:子供たちを食べさせるためです!って答えた。そしたら「せっかくお父様から素晴らしい仕事を受け継いだんだから、お金のためだけに働くのはやめなさい」って言われて。でも、それじゃ誰が私の子供たちを養ってくれるんですか?って、思わず反発したんです。そしたら「生活の面倒は僕が見ますよ」と。
夫:ははは。
妻:意味がよくわからなくて「あのう、それはどういう意味でしょうか?」。そしたら「結婚しましょうっていう意味です」って。びっくりしました。