及川:例えばシャアがルウム戦役で戦艦5隻沈めたとか、ジオンが独立戦争に至る経緯というのも、細かくは決まっていないのに、その伏線を富野監督が張っていたということですか。
安彦:ええ。閃(ひらめ)きでしょう。彼自身、なんでそうしたかということは説明できないと思います。
及川:テレビシリーズで、「キャスバル兄さあーん!」とセイラがシャアを追いかけるシーンがありますが(注2)、「THE ORIGIN」でその背景がしっかりと描かれ、こういう流れでこの別れがあったんだなと納得しました。
安彦:僕は最初、この2人はあまり気に入らなかったんです。彼らは亡国の王子と姫君でしょう。ちょっとガンダムっぽくないなあと。
シャアは、昔からちょっと理解できないキャラクターでした。不倶戴天の敵であるザビ家を倒して、私こそ世継ぎだってやればいいわけです。そうすればダイクン家の再興ができ、正しいジオンを創れるわけです。ところがシャアはそれをしないんですね。まったく生産的なことをしないわけです。説明がつかない。そこで、シャアをちゃんと理解しなきゃ駄目だ、こいつの生い立ちを描かなきゃいけないという感じになってきました。彼の行動原理というのは、プライベートな衝動なんです。
及川:シャアのお母さん、アストライアさんの悲劇(注3)があったからですよね。でも、それにしても自己中(笑)。独立戦争のきっかけになる暁の蜂起を仕掛けますし。
安彦:ええ。個人的な恨みが彼を動かす。幼少期に負った心の傷から、すべてが始まるんです。