国立がん研究センターが昨年発表したデータでがん死亡率が11年連続で全国ワースト1位となった青森県。平均寿命は男女とも最下位だ。“不健康”県のレッテルを県民はどう思っているのか。記者はまず八戸市に降り立った。
凍てつく寒さの中入った居酒屋でママ(58)に健康意識について話を聞く。
「死亡率が高いと言われてるけど、常連さんは皆愛煙家だし、お酒も塩辛い物もよく頼む。病院は遠いし行かない人多いかな。寒いから外出たくないもの(笑)」
語る表情に悲愴感はまったくない。居酒屋帰りに乗ったタクシーの運転手(66)もあっけらかんと話す。
「短命県返上!ってCMしてるけど、ピンとこないね。飲酒率高いって言われても、仕事終わりの酒が楽しみなのは変わらないよ」
記者の降り際に「今夜はにごり酒を飲もうかな」と運転手は笑顔で話した。
青森県民の生活習慣について、むつ保健所の平紅さんに尋ねた。
「食生活は全体的によろしくないですね。野菜摂取は塩辛い漬物で済まし、お酒もラーメンも大好きな人が多いようです。幼いころから塩分の多いものに慣れてしまっているんです」
下北地域の保育園でのアンケートによると、子どもの朝食にカップラーメンを食べさせるお母さんが多いという。朝からラーメン、いわゆる「朝ラー」だ。記者も朝8時、ラーメン店に入ってみたが、客がすでに5人いた。味噌ラーメンは脂が浮いて味は非常に濃い。朝から胃がもたれた。
青森県は喫煙率、飲酒率が日本一高く、食塩摂取量も全国でトップクラス。なかでも喫煙・塩分と胃がんには因果関係があるとされ、青森県は胃がんでの死亡率が全国ワースト5に入る。では受診率についてはどうなのだろうか。
「青森県は病気をほっとく人が多いのか、倒れてから病院に来てみれば、カルテがないなんてこともあります。病院は後回しで、仕事は休まない。それが検診に来ない理由のひとつかもしれません」(平さん)
がん診療連携拠点病院である青森県立中央病院院長の吉田茂昭さんも指摘する。
「青森県は漁師さんとか農家とか1次産業が多いんです。自営業の方はがんと診断されたら仕事の代わりがいない。休めないから検診にも来ないんです」
働き盛りの50代、60代の受診率が低く、死亡率は群を抜いて高いと吉田さんは続ける。
「原因は早期診断ができていないこと。講演などの啓発運動だけではなく、短命県返上のために行政も含めて新たなアプローチを考えていかなければならないと思っています」
仕事を休まずに検診を受けられる方策を検討中だという。
「ただ、青森県の中でも地域格差があるんです。三沢、八戸や上北地域はがんにかかりにくく、津軽は罹患率も死亡率も高い。県でくくる座学だけの頭でっかちではなく、草の根で働きかけなくてはいけないと考えています」(吉田さん)
草の根運動については平さんも力を込めて話す。
「健康づくりはおもしろくないというイメージをいかに払拭するか。健康に親しむことは楽しいと思ってもらえるよう走り始めたところ。5年後10年後に結果が出るよう、今が勝負です」
短命県返上。近い将来に現実となるか。
※週刊朝日 2016年3月4日号