知花:往診鞄ってなじみがないんですが、想像をかきたてられます。ドラマでは見たことがありますけど。

永田:そうか! もうなじみがないのか。都会ではそうかな。昔の先生は大体、往診をしていたんだよ。次は、恋の歌を。「貝殻をタコノマクラと教えしは 教えたがりの愛しいだれか」。「教えたがりの」がなかなかクール。

知花:私もその歌を選びました! なんかキュンとしました。彼のほうが何でも知っていて、それを頼もしくも思うけど、ちょっとほほ笑ましく思うような。

永田:「この人だ」と分かっているのに「愛しいだれか」と言っているのもいいね。28歳、いかにも若い人の恋の歌です。それに、恋の場面で「タコノマクラ」って不思議だから、インパクトがあるしね。恋の場面にコーヒーはありがちですが、それでは当たり前すぎて面白くない。

知花:想像できないような、意外な物を見つけられたら、シメシメなんですね。

永田:そういうことだね。ここで今回の最優秀賞にいきましょう。これも恋の歌、「1トンの雪が屋根から落ちてきたようにあなたと出逢ったあの日」。すごい出会いだったんだね、きっと!

知花:つぶされなくてよかった! 1トンの雪に!

永田:ははは。一瞬のうちに心とらえられちゃったんだ、きっと。「出会いで衝撃を受けた」などだと説明になってしまいますが、こんな表現は良いですね。

知花:先生、比喩を使うのは難しくて。

永田:例えば、「モミジのような赤ちゃんの手」だと、当たり前で面白くない。比喩は落差があるほうが力があるんです。「1トンの雪が落ちてきたように」で「一体なんだ?」と思わせて、答えは、出会いだった。想像しない組み合わせでインパクトがある。比喩は、出来合いのものではなく、自分が見つけたものを使いましょう。

週刊朝日 2016年3月4日号より抜粋

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