女性でありながら城主として戦国時代を生きた井伊直虎。2017年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」で取り上げられ注目を浴びているが、井伊家17代当主の長女・井伊裕子さんは、直虎を「すごく強い人」だという。
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私が井伊直虎を知ったのは学生時代。何かで読んだのがきっかけだったと思います。
一人娘として生まれた直虎は、父親が戦死し、許嫁(いいなずけ)だった直親を家臣の裏切りで失うなど、まわりに井伊家の当主となるべき男の人がいなくなりました。とにかく自分がなんとかしないと、井伊家がつぶれてしまうという大変な立場です。
そして、直親の遺児である幼い直政を守るために、井伊谷(いいのや、現在の静岡県浜松市)に住んでいては危険だと三河の寺に預けたりしながら、最終的には直政を徳川家康に仕えさせるところまでつなげていきました。頭のいい女性だったのだろうと思います。
私としては「直虎」という名前より、出家して名乗っていた「次郎法師」のほうがぴったりきます。ふつう出家したら男か女かわからないような法名をつけますが、「次郎」という男の名前をつけたところに、彼女の置かれていた立場や思いが凝縮されているような気がするんです。
戦国時代、女性の当主がいないわけではありません。しかし、男のほうが断然優位に立っていた時代です。直虎という名を名乗って領主を務めたのも、男になりすまさないと馬鹿にされてしまう状況だったからではないかと思います。虎、という字がまた強そうですよね。
実は彼女の話を初めて知ったとき、置かれた立場が自分自身と重なって、胸がぎゅっと絞られるような思いがしました。
私は二人姉妹の長女で、男兄弟はいません。ここでつながなかったら直系の井伊家はぷっつり切れてしまう、という状況でした。