今回、私は醜女の役を務めます。太郎冠者が、釣った女性は美女だと早合点し、「そなたと夫婦になるならば、春は花見夏は涼み、秋は月見の酒盛りに冬は雪見のちんちん鴨(中略)必ずそもじは変はるまいな」と求婚したときも、被衣を取られるまでは醜女だとバレないように語らなければいけませんので、醜女は「なんの変はつてよいものかいな」という言葉をとても可愛く語ります。ご注目ください。
物語に二匹目のドジョウはいませんでしたが(笑)、こんな興味深い話があります。二〇〇二年の中南米公演で私が釣女の大名を務めたとき、お客様から「醜女は愛嬌(あいきょう)があって可愛い」「美女は個性がなく冷たそうだ」と言われたのです。ブラジルやメキシコではふくよかで陽気な女性がモテるといいますが、まさかそんなご意見が挙がるとは。女性の好みは人それぞれ。皆さんの目に醜女はどう映るでしょうか?
豊竹咲甫大夫(とよたけ・さきほだゆう)
1975年、大阪市生まれ。83年、豊竹咲大夫に入門。今回の「釣女」では醜女役を、午後4時開演の第2部「国性爺合戦」では楼門の段を務める。
※「釣女」は1月3~26日、大阪・国立文楽劇場(15日休演)。午前11時開演。公演の料金や空席状況の詳細は国立劇場チケットセンター(ticket.ntj.jac.go.jp)。
(構成・嶋 浩一郎、福山嵩朗)
※週刊朝日 2016年1月1-8日号