公安部外事1課は、このとき手渡された冊子が陸自の「教範」と呼ばれる部内資料であることを確認した。教範は訓練時の部隊の行動基準などが解説されたもので、秘匿性が高い種類のものは秘密指定されているが、この時、渡された教範は秘匿性が低く、秘密指定のものではなかった。
しかし、外部への持ち出しは認められていないものであることから、警視庁は自衛隊法(守秘義務)違反の教唆容疑で、K元武官(すでに帰国済み)とI元陸将、さらにI元陸将に教範を提供した現役陸将や退職者を含む自衛官5人を書類送検するという。
「防衛省などの役人は機密資料を含む内部資料の管理がゆるい上、海外のスパイに対し、脇が相変わらず、甘い。まず、スパイ天国のお国柄を変えていかないとテロは防げない」(警察庁関係者)
ISなど国際的テロ組織の動きを事前に把握するため、わが国も独自の「諜報」ルートの確立が不可欠だ。
しかし、わが国は諜報活動を行うどころか、逆に日本人が海外で拘束される事件が相次いでいる。
今年5月から6月にかけて4人もの日本人が相次いで中国で逮捕・拘束されていたことが、9月末以降、明らかになった。
拘束されたのは、神奈川県の自営業者の「脱北者」男性(55)、愛知県の人材派遣会社経営者男性(51)、北海道の男性(60代)、東京都の日本語学校経営者女性(50代)だ。
神奈川県の自営業者は中朝国境地帯を頻繁に訪れて北朝鮮情報を収集しており、愛知県の会社経営者は浙江省温州市沖の軍事関連施設に立ち入って写真を撮影。日本の公安庁のスパイではないかとの疑惑が浮上した。
その中国側の疑惑に対し、「彼らはスパイなどという大仰なものではない」と公安担当記者は疑問を呈す。
「公安庁は頻繁に外国を訪れている日本人と国内で接触して話を聞くが、海外にスパイを送り込むなどというのは聞いたことがない」
公安庁は一応、調査機関だが、“スパイ組織”というにはほど遠い地味な活動しかしていないようだ。
今後のテロ対策は大丈夫なのだろうか?
※週刊朝日 2015年12月11日号より抜粋