戦国時代、瀬戸内海を支配した“大海賊”がいた。それが村上水軍だ。武名は全国に轟き、織田信長方の水軍を負かしたこともあった。その海戦を壮大なスケールで描いた『村上海賊の娘』の著者・和田竜さんと村上水軍を先祖にもつ衆院議員・村上誠一郎さんが、大海賊の魅力を徹底解析した。
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和田:私は村上家のご当主の方々にもお会いしましたが、家臣の人のほうが元気なのかとも思います(笑)。
村上:主人公の景(きょう)のアイデアは斬新ですよね、奔放で大柄で日本人離れした風貌。どういうイメージから出てきたんですかね。
和田:戦国時代の女性って政略結婚でおしとやか、というのも一方でありながら、やっぱり史料を読んでいると元気なんですよね。
村上:景ちゃんのような子が村上一族にいたら私がもらいたいぐらい(笑)。
和田:景は、家系図には「女」とあるだけで、あとは僕の想像なんです。『萩藩譜録』という史料に書かれているのは、村上武吉に娘がいて、後に黒川五右衛門元康という男と結婚した、ということぐらい。でも、あの海賊王の武吉に実の娘がいた。これは書ける、と思ったんですよ。
村上:景は和田さんの理想の女性でしょ?
和田:うーん、まあ、わりと元気な女性は好きですね(笑)。
村上:まあ、あの時代の村上一族だったから、あのような素晴らしい女性がいたんですね。
和田:そういう説得力を持たせられたらいいなと思いながら書きましたね。インターネットで作品の感想を読んでいたら、今治の人が「うちのばあちゃんも景みたいな風貌だった」とか書いてあるんですよ。いいことを書くと「そのとおりである」って言う人も結構出てくるんだなと思いました。
村上:具体的に誰かをイメージして書いたんですか。
和田:特定の人を想定したわけではありませんね。
村上:映画だったらこういう女優さんにしようかな、とかはなかったんですか。
和田:あんまりイメージしちゃうと、その枠にはまって広がりがなくなっちゃうんですよね。ただ、読んだ人からは、「女優の杏さんをイメージして書いたんですか」とよく聞かれました。
村上:私のイメージとしては、すみれさんかなと思うんですよね。
和田:なるほど。なんとなく外国人のような雰囲気にはしたかったんです。最初、景の設定を編集者に話してもわかってもらえなかったんで、そのとき例えたのが長谷川潤さんというタレントさんで……。
村上:ハセジュンのこと?
和田:そうそう(笑)。ああいう感じです、と言ったら、編集者も理解してくれました。
村上:ところで、景を見てふっと思い出したのが、お恥ずかしながら、私の娘なんですよ。
和田:おきれいな方で。
村上:いやいや。娘は大学を卒業して広告会社に入ったんですが、NHKドラマの「梅ちゃん先生」を見て「リセットしたい」って言いだして、文科系なのに医学部に入り直しました。2度も大学に行くから親としては大変なんです。
和田:優秀なんだなあ。
村上:いえいえ。親父に相談しないで勝手にやる。これも村上水軍の血なのかなあと。独立不羈(ふき)の精神というか。
(構成 本誌・鈴木 顕)
※週刊朝日 2015年10月30日号より抜粋