妻:モデルでブレークしたときのようにお金なんて入ってくると思ってたんですよね。でも、あるとき計算してみたら、借金が1億円!
夫:あっという間に電気もガスも止められて。そこからはアルバイトの日々です。
妻:不動産屋さんのチラシをリュックいっぱいに詰めて、二人で深夜にマンションを回ってポスティング。昼間は、私はお弁当屋さんでアルバイト。彼は日雇いの肉体労働に行ってくれた。食事は猫缶やドライのペットフードでしのいだことも。それが一番安かったの。ビタミン配合って書いてあるし、栄養のバランスはいいのかな、と思って。でも、そんな生活を続けるうちに、心身ともに病んでいきました。街じゅうの人が私を見て「パリコレモデルだなんてかっこつけてたけど、今は猫缶食べてるんじゃない」って嘲ってる気がして。何をどうがんばったらいいかわからなくなって、生きていくのが怖くなっちゃった。それで彼に、一緒に死のうって。車で富士山まで行ったんです。
夫:それが皮肉なことにベンツなんですよ。売ろうにも、ローンの残額のほうが大きくて、売るに売れず。
妻:崖っぷちに車を止めて、黙って最期の時間を過ごしてたの。そのときふと、少し離れたところでソフトクリームののぼりが風に揺れてるのが目に入った。
夫:最期に食べようか、と。
妻:お金はなかったんだけど、車を隅々まで探したら、小銭が出てきたんですよ!何とか買った一個を分け合ってたら、彼がつぶやいたの、「うまいな」って。その瞬間、いろんな気持ちがうわーってあふれ出した。彼に申し訳ない。さんざん振り回して、うまくいってた仕事も私が辞めさせて。死ぬときには笑顔でいてほしいのに、このままじゃつらすぎる。それで、きっちり食べ終わったところで「帰ろう」と(笑)。あのとき、ソフトクリーム食べてなかったら、あのまま車ごと、崖下へダイブしてたと思う。
※週刊朝日 2015年9月11日号より抜粋