福島県在住の会社員・佐山雄二さん(仮名・55歳)は、6カ月前に引っ越しで重い荷物を持ったときに、腰に激痛が走った。すぐに自宅近くの整形外科を受診。湿布薬と鎮痛剤のロキソプロフェン(商品名ロキソニン錠など)を処方され、痛みは和らいだ。しかし時間が経つと痛みは徐々に悪化していくように感じた。やがてだるさや食欲不振、不眠にも悩まされ始め、福島県立医科大学病院整形外科を受診した。佐山さんを診た矢吹省司医師は次のように話す。
「慢性の痛みがある場合、X線検査、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴断層撮影)、血液検査などをおこない、まず悪性腫瘍や骨、関節などの病気がないか確認します」
検査の結果、痛みを招く病気は見つからなかった。
「検査で腰痛の明らかな原因が見つからないと、非特異的腰痛と診断されます。非特異的腰痛はよく原因不明の腰痛と説明されます。これは原因が全くわからないという意味ではなく、いくつか想定できるけれども一つに絞れない、つまり複合的な要因で起きている腰痛と捉えたほうがよいでしょう。また、痛みは本来損傷が治ればなくなるはずですが、『動くとまた痛むのでは』という恐怖感は脳に残り、痛みにつながる場合があります」(矢吹医師)
原因を見つけて、対処することで症状を取り除くのが、治療の基本だ。しかし非特異的腰痛を招く複合的な要因の中で家庭や社会、人間関係等のストレスが占める割合は大きく、それら全てに対処するのは難しい。
「原因追究はひとまずおいておく。痛みがあってもできることを増やして、痛みとうまくつきあいながら生活するという考え方に変えることがまず大事です」(同)
このように、痛みに対する意識を変えることを認知行動療法という。