――恐怖心とは具体的に。
「両親や妻になんて言おうか」「子どもの七五三には行けないな」「ニュースに出てしまうだろうな」とか、そんなことが頭をよぎりました。
逮捕された翌朝、刑事さんから「奥さんが泣いていたぞ」と言われました。ただ、そのときは「てめぇらが来たからだろ」としか思えなかった。留置場にぶちこまれてからも、ずっと他責思考のままでした。
――どういうことですか。
僕には学もないし、資格もない。そんな自分が家族や周りの人を幸せにするには、詐欺は必要なことだったと本気で思っていたんです。「僕がどういう思いで詐欺をしていたか、誰もわかっていない」と感じていました。
刑を軽くすることだけ考えていた
――被害者への申し訳なさはありましたか。
妻や子どもに対して悪いという気持ちはありましたが、被害者の方への償いの気持ちはありませんでした。
――起訴され拘置所に移ってから、被害者への感情は変化していましたか。
このときも申し訳ない気持ちはなく、刑を軽くすることだけを考えていました。
――判決は。
懲役5年4カ月の実刑判決でした。刑務所に入ってすぐのころも、償いの気持ちをあまり持てていませんでした。ただ、高卒認定試験の勉強を始めて、自分の常識が世間と違うことに気づきました。
――どんなところが違ったのですか。
倫理の教科書を読んだのですが、最初は「たかが道徳でしょ」と軽くみていました。国語は得意だったし、余裕で理解できると思ったんです。なのに、書いてあることの意味がまったくわからなかったんです。
――わからないとは、どういうことですか。
きれいごとばかりだと思ったんです。何百年も前から当たり前のように言われていることなのに、どうして自分は違う考え方なんだろうと疑問を持ちました。なぜこんな考え方をしているのか不思議になり、1冊の教科書を4カ月くらいかけて何度も読み返しました。
(構成/編集部・福井しほ)