組織もそれを黙認した。実は、同センターでは問題が発覚する約4年前の10年7月、すでに内部告発があった。ところが、病院のトップであるセンター長も、同センターを管轄する県病院局の局長も無視。それどころか、告発した医師は仕事を外されるパワハラを受け、退職に追い込まれた。
医師は11年2月、厚生労働省の内部通報窓口にも告発状を送ったが、今度は「退職者は対象外」とする「公益通報者保護法」の規定を理由に返送されてしまった。
改善の芽が事前に摘み取られるのは、医局という「白い巨塔」でよく見られる光景だ。
14年1月に発覚したアルツハイマー病研究の国家プロジェクト「JーADNI(アドニ)」のデータ改ざん疑惑でも、内部告発者が報復を受けた。前年秋に告発メールを受け取った厚労省の担当専門官が、あろうことか、改ざんを主導していた研究チーム代表の教授に「研究班で対応していただきたい」と書き添えた上でそのまま転送していた。
問題が発覚すると、その教授は内部告発者の実名を挙げ、「妄想チックになる激しい人」と発言。厚労省担当者も人間関係の問題にすり替えようとした。
こうしたデタラメが繰り返されるのは、内部告発者の利益を守るはずの公益通報者保護法の規定の甘さにある。保護対象者の範囲が狭い上に、保護せずに違反した場合の罰則もなかった。管轄する消費者庁は14年6月、より広範囲の保護ができるように各省庁向けのガイドラインを改正。職員が告発内容を漏えいした場合に「懲戒処分その他適切な措置を取ること」も盛り込まれた。だが、制度に詳しい中村雅人弁護士がこう疑問を呈する。
「ガイドラインは『標語』でしかない。『おはようの挨拶をしよう』と掲げているが、言わなくても罰則がないのと同じ。各省庁向けに限られており、全く意味がない。根本的に法改正をして、保護の範囲を広げ、違反した事業者に対する罰則を定める必要がある」
(本誌・長倉克枝、西岡千史、古田真梨子)
※週刊朝日 2015年6月12日号