報告書案では、全11例中10例に手術の選択や患者への事前説明などに問題があったと指摘されている。問題の10例のうちA医師が担当したのは7例で、6例が保険適用のない手術だった。具体的な事例では「これが医療なのか」と思いたくなるものもある。
A医師は2008年6月に、86歳男性の胆管がんの手術を執刀した。これも保険適用外の腹腔鏡手術で、出血量は通常手術の2倍以上の2.4リットルにのぼった。さらに、9カ月後に亡くなるまで5回も再手術をしていた。ところが、センターの死亡診断書には「老衰」と書かれていた。
センターの永田松夫病院長は死因は「必ずしも間違いではない」と説明する。一方、日本外科学会の調査による死因の考察では「度重なる手術による体力・免疫能の低下を来していた」と、手術関連死であるとしている。報告書案を読んだA医師を知る外科医は、憤りを隠さない。
「この患者は老衰ではありません。腹腔鏡手術の失敗を隠すため、虚偽の死亡診断書を書いたのでは」
死亡事故を繰り返し、それを隠しても責任を問われなかったA医師。報告書案では、A医師の暴走を招いたセンターの体質も「組織的に隠ぺいが意識されているというふうに受け止められ」ると批判されている。千葉県議会でこの問題を追及してきた丸山慎一議員は言う。
「10年夏にすでにセンターのずさんな医療態勢は問題になっていて、女性の麻酔科医はセンター幹部や県、厚生労働省に内部告発をしていました。ところがその訴えは無視され、その医師は退職に追い込まれたのです」
告発を握りつぶしたのは、いつ誰の判断だったのか。その検証がなければ、悲劇が繰り返されるだけだ。
※週刊朝日 2015年4月17日号