認知症の親や配偶者が問題行動を起こしたとき、家族は言葉で行動を全否定しようとする。しかし、症状を悪化させるだけでなく、問題行動をエスカレートさせる可能性がある。

「思いどおりにいかないからといって、周囲の人が命令口調で指図するのは逆効果です」

 こう語るのは、社会福祉法人浴風会(東京都杉並区)の「介護支え合い電話相談」を担当する、角田とよ子室長。2000年の開設以来、延べ5万7千人の介護家族からの悩みを聞き、思いに寄り添ってきた。

 下記にまとめたのは、介護をする家族が思わず発した主なNGワードだ。家族が認知症の人を傷つけた例を紹介しよう。

 70代の母と同居するトモコさん(仮名・50代)は夫と3人暮らし。トモコさん宛てに届いた郵便物を母は何度も「自分宛てに届いた」と言う。そのたびに「お母さん、また間違えた」と訂正した。

「同じことを何度も聞かれる。会話が成り立たなくなって疲れました」と、トモコさんは、電話口で角田さんにこぼした。

「認知症が進むと同じことを何回も言い、新しい体験が覚えられないといった行動が目立ってきます」(角田さん)

 そこで家族が「何度も同じことを言わないで」「さっき説明した」などと言い返すと、「また叱られた」というマイナスの感情だけが残り、症状が悪化する可能性がある。

「何度も同じことを聞かれるとついカッとなって、家族は強く言い返してしまいます。質問をしたことを忘れるのが認知症。何回でも根気よく答えてあげると、質問しなくなります」(同)

 80代の義父と夫、子供の5人で暮らすヨウコさん(仮名・50代)は、おむつ交換の最中に、義父に怒鳴られた。

 
「一生懸命お世話をしているのに、『意地悪な女だ。こんな女を嫁にしたら最悪だ、出ていけ』と怒鳴られて、やる気が失せてしまいました」(ヨウコさん)

 認知症の人は、身近な人に対して攻撃的になるので、真に受けてはいけない。

「なぜ悪態をつくのか振り返ってみると、家族がおむつ交換をするので、羞恥心があったのでしょう。そんなときに『お世話をしてあげているのに』などと、上から目線で物を言うと、問題行動がエスカレートすることがあります」(角田さん)

■認知症の人への主なNGワード

・暴言を吐かれたときに⇒「お世話をしてあげているのに」「うるさい」「やってあげているのは誰だ」

・間違ったことを言ったときに⇒「また間違えた」

・リハビリの動作がうまくできないときに⇒「何でできないの」「もっと頑張れ」「努力が足りない」

・動作が遅いときに⇒「遅い」「早くやって」とせかす

・同じことを何度も聞くときに⇒「何度も同じことを言わないで」「さっき説明したでしょう」「うるさい」

・リハビリや入浴を嫌がるときに⇒「何で行かないの」

・粗相をしたときに⇒「また汚して」

・帰省したときに⇒「そんなお母さん(お父さん)の姿は見たくない」

週刊朝日  2014年11月28日号より抜粋