舞台美術家、エッセイストとして活躍、近年は自伝的小説『少年H』がベストセラーとなって映画化もされ、傘寿を過ぎても自由奔放な妹尾河童(せのお・かっぱ)さん。妻はそんな夫をおもしろがって冷静に見つめ、エッセーに綴(つづ)る風間茂子さんである。「モコ」「河童」と呼びあう二人の自宅には、「妹尾」「風間」と二つの表札がかかり、毎年、お互いの意思を確認する“1年契約”結婚を続けている。結婚後しばらくして、夫から提案したとか。
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夫「『君と一生別れない』なんて言った途端にウソになる。僕、ウソは嫌だから。『毎年、結婚を継続する意思を確かめようよ』と」
妻「私も大賛成で“1年契約”に。結婚指輪もはずそうと思ったけど、太っていて抜けなかった(笑)」
夫「指輪を買った銀座の日本堂という時計店へ行った。簡単にはずせたね」
妻「指輪と指の間に薄い金属板を入れて、細いペンチでパチン。あっさり18金の指輪とサヨナラできた」
夫「それを見て、別れようと思えば簡単なんだ。でも一緒に暮らしたいという二人でありたいと思った」
妻「この話を聞くと、みなさん驚かれますが、“1年契約”の利点、多いんですよ。別れたいのに、いつ切り出そうかなんてウジウジしないで、『更新はゴメン』と、言えばいいから。河童にすがって生きるのは私、嫌なの」
――結婚の更新は今年2月6日で53回目。結婚当初からなんでも話し合い、「議論はするけれどけんかはしない」という二人。それでも半世紀の歴史の中には、強い逆風が吹くこともあった。
夫「更新は無理かな? と思った年は3回あったね」
妻「河童は女性に惚れっぽい人だから。一番長い恋人と(夫のつきあい)は10年近かったかしら? ヨーロッパに1年間研修に行く前だから、30代後半ね」
夫「嫉妬心のないモコが、初めて拒否感を持った」
妻「長く付き合っていて、後半のころ、パーティー会場でも『河童の彼女です』という振る舞いをするようになったからです」
夫「後で『あのとき、どうして更新してくれたの』って聞いた。モコは『私への愛情や関心がなくなったわけじゃないと思ったから』と言った」
妻「彼女は若く美人で、センスも良かったから。河童が惚れてたのも理解できた。こっちは下の息子も生まれて子育てに忙しかったので、まあ仕方ないか状態でしたからね」
夫「モコはよく友人に聞かれるんだって。『河童さんと結婚なんて大変なんじゃない?』って。大変じゃないよね?」
妻「大変ですよ(笑)。でも、ユニークでおもしろいから」
夫「よく夫婦はお互い空気みたいな存在とか言う人がいるけれど、冗談じゃないよなあ」
妻「しっかりありますよ、存在感」
※週刊朝日 2014年11月21日号より抜粋