「大人の発達障害」が注目されるなかで、それが疑われる夫を持つ妻たちが孤立や苦悩を訴える“カサンドラ症候群”の存在が明らかになっている。アスペルガー症候群を含む「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の夫とのコミュニケーションがうまくいかず、その状態を周りにも理解されず、心身に不調をきたした妻のことだが、彼女たちは悩みをこう吐露する。
「夫は口数が極端に少なく、子どものことなどを相談しても、ただ黙っているだけ。私一人で決めるしかなく、うまくいかないと『俺はそれがいいとは言わなかった』と。確かに夫は何も言っていないので、私のせいなんだと自分を責めるしかない。アスペルガー症候群の話をしたら『人のことを障害者扱いするな!』と怒鳴られ、数少ない言葉を交わす機会も怖くなってしまった。心身ともにボロボロ、片耳の聴力を失い、内臓にも異常が見つかり働けない状態で、離婚もできない」(50代主婦)
「夫の自閉症スペクトラム障害(ASD)を疑い始めたのは、長年の風俗通いが発覚したから。少し変わってはいるが真面目で正義感が強く、倹約家だと思っていたのに。泣く私を見て夫は驚き、『傷つくとは思わなかった』とキョトンとした表情。なぜ私が悲しむのかが理解できないため、私自身がとうとうと説明しなければならない」(40代主婦)
夫婦間のコミュニケーション不全をすべて発達障害のせいにするのは、障害差別を助長しかねない。しかし、夫との関係に困り果て、声を上げることさえできずに苦しむ妻が相当数いることは、紛れもない事実だ。
今、妻たちによる自助グループが各地に立ち上がり、インターネットで情報発信している会もある。悩みを打ち明け合う茶話会のような集まりから、妻自らが回復する術を身につけるワークショップ形式の会までさまざま。一方、未診断の人のパートナーたちが集まってしまった場合、情報や対応策が混乱する恐れもあると指摘する声もある。
成人発達障害の専門外来を設ける昭和大附属烏山病院(東京都世田谷区)では昨年度、厚生労働省の推進事業として「成人期発達障害支援のニーズ調査」を実施し、当事者、家族、医療や行政の関係者にアンケートした。その結果、家族の7割が「自分たちへの支援が必要」「自分たちを対象とした心理教育や支援のプログラムがあれば参加したい」と答えた。行政機関も本人へのさまざまな支援とともに「家族への支援は必要」との回答が最も多く、8割近くに上っている。
※週刊朝日 2014年11月14日号より抜粋