元西武ライオンズのエースで、同チームの監督も務めた東尾修氏。ゴルフ界に現れた新星にピッチャーとの共通点を感じたという。

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 女子プロゴルフ界にまた新星が現れたな。プロ2年目の鈴木愛が日本女子プロ選手権で大会最年少記録を更新する20歳128日でツアー初優勝だ。武器のパターがさえた。強みを持っているということは、本当にプレッシャーのかかった時に心のよりどころとなる。重圧のかかるショット、不得意なクラブがあったとしても、絶対的な自信を持っているものがあれば、そこにすがれるし、精神状態を一定に保てる。

 競技は違うが、野球のピッチャーに共通点は多い。自分が投げなければ、プレーはスタートしない。そして心を一定に保てない選手は、自分のボールを投げることはできない。また、ピンチの局面で何を考えるかなど。鈴木愛のプレーを見て、自分のストロングポイントを持つことがどれだけ重要かを再確認したよ。

 巨人の沢村拓一が右肩の不安から復帰し、安定した投球をみせている。彼の言動や投球を見ていると、以前の完璧主義者から、その日の一番いいボールを軸にして調子の悪い球種は捨てる、良い意味での割り切りができるようになった。すべての球種が思い通りにいくことなんて、1年に1度あるかないか。それを追い求めるのは、全体の底上げを図るオフのトレーニングでいい。試合になったら、自分の武器をどう生かすかだけ。多くを追い求めても、自滅してしまうだけだ。

 私で言えば、プロ1年目に1軍に上がったけど力はなかった。2年目は11勝18敗、3年目も8勝16敗、4年目なんて18勝したけど25敗だよ。悟ったのは、自分の直球では空振りを取れないということ。それまで、打たれるなら直球を磨いてやろうと思う部分はあったけど、発想を変えた。自分の武器であるスライダーを軸に組み立てようとね。

 そして、打者にとって何が一番対応しづらいのか、を考えた。ストライクからボールになる球以上に、ボールからストライクになる球──。左打者の外角のボールからストライクゾーンに入るスライダー。今で言えば「バックドア」だな。右打者なら内角のスライダーだよ。体にぶつかるように行って最後に曲がる。その球種をストライクにとってもらうために、春季キャンプのブルペンでは審判に「ベースの捕手寄りの角でかすってもストライクだよね」と確認し、その球種を投げて審判の心証に植え付ける努力もした。武器を最大化すること。プロで生きぬく軸を見つけた。

 9月に入って、クライマックスシリーズから脱落した球団は特にだが、若い投手にチャンスは巡ってくる。その投手が1回や2回のチャンスで何を考えるか。結果をほしがって、すべてを完璧にやろうとすると、どこかで崩れる。例えば「自分の通用する球種、打者の反応を見る」とテーマを絞ってマウンドに立てばいい。そこで得た自信、欠点の発見は、飛躍へのきっかけとなる。

 伸び悩む選手に共通するのは、欠点だけを消そうと躍起になって、負の連鎖にはまってしまうことだ。新しい球種にすぐに手を出すのも、逆に長所を消す要因になるな。球種が多ければ、一つひとつの球種の差別化がはかれなくなるから。まず、自分の武器は何かを再確認し、磨き続けることだ。制球力は投球だけではない。心のコントロールも、プロでは重要な要素となるわけだから。

週刊朝日  2014年10月3日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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