語学の壁、厳しいトレーニング、トップレベルの選手たちとの競争……。そんななかで錦織選手が親しんだのは、「にんげんだもの」のフレーズでおなじみの詩人・相田みつをの詩である「一生燃焼 一生感動 一生不悟」。相田みつをの長男で相田みつを美術館(東京都千代田区)の館長・相田一人さんは、

「厳しい環境下で、日本語の力に励まされてきたのではないでしょうか」

 前出の盛田さんも、

「それはそれは大変だったと思います。泣きたいこと、つらいことは、たくさんあったはず。けれど、圭は強くなりたいという執念を持ち続ける力があった。それも立派な才能です。マイペースで周囲に惑わされない性格もよかった」

 海外で磨かれた錦織選手の才能。国内で進学していたら、ここまでは到達できなかったというのが大勢の見方だ。国体少年男子ダブルスで優勝している元衆院議員の杉村太蔵さんも、そんな一人。

「皆さんピンときてないかもしれませんが、今回の快挙はサッカーに例えると、W杯で日本がブラジルに勝ち、アルゼンチンに勝ち、決勝でドイツと戦ったようなもの。彼のような選手を育てるためには、やはり留学させるのが一番でしょう。でも、お金がかかる。多くの選手にチャンスを与えるために、安倍政権にも支援の枠組みを作ってもらいたい」

 錦織選手のような存在がもたらす経済効果は大きい。11年1月からスポンサー契約を結び、ロゴがテレビの大画面で大映しになったユニクロ。その宣伝効果は計り知れず、「歴史的偉業」として即日、1億円のボーナスを決定した。

 身に着けていたグッズの売り上げも目覚ましく、各地のラケットショップでは、錦織選手が使用する米国製のウイルソンのラケット「STeam95」(税込み3万7800円)がほぼ完売状態。試合中、錦織選手が左手に着けていた時計はタグ・ホイヤー製。今年9月1日、錦織選手がデザイン監修をした第2弾の「アクアレーサー Air–K2 日本限定モデル」を発売したところ、なんと29万7千円(税込み)もするが、国内窓口には問い合わせが殺到しているという。

 錦織選手は、決勝後の会見で語っている。

「僕はもう、そんなに若くない。だから自分にもっとプレッシャーをかけないと」

 まだ24歳。されど、もう24歳。超一流になるための道筋を示し、日本に活気を与えてくれたことに感謝しつつ、さらなる高みを目指したチャレンジを応援したい。

週刊朝日  2014年9月26日号より抜粋

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