三重-大阪桐蔭 7回裏、大阪桐蔭の主将中村は、詰まりながらも逆転の中前2点適時打(撮影/遠崎智宏)
三重-大阪桐蔭 7回裏、大阪桐蔭の主将中村は、詰まりながらも逆転の中前2点適時打(撮影/遠崎智宏)
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 大阪桐蔭の優勝で終わった今年の夏の甲子園。明治期の一高野球部を舞台にした小説を現在、連載するなど野球通として知られる作家・木内昇氏が、甲子園を振り返った。

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 準決勝2試合は対照的な展開になった。三重─日本文理はテンポのいい投手戦、一方の大阪桐蔭─敦賀気比は長打連発の打撃戦だ。

 まずは第1試合。日本文理不動のエース・飯塚は最速145キロの直球とキレのいい変化球、抜群の制球力で大会前から注目を集めた存在。反して三重の左腕・今井は、甲子園に来てからぐんと力を伸ばしていった印象がある。森、瀬戸上と力ある投手も控える三重。全員野球を重んじる中村監督は継投を多用するかと思いきや、今井がここまでほぼひとりで投げぬいている。

 捕手・中林のリードも巧み。2球続けて内角を突いたあと、きわどい外角をうまく振らせて内野ゴロに打ち取るなど、打者の読みの裏をつく。守備も堅固だ。特に一塁手・西岡の、開脚で体を伸ばしワンバウンドの送球もすくい上げる技術は卓抜したものがあった。

 飯塚も貫禄の投球を見せたが、三重打線はおそらく外角に的を絞ったのだろう、ベース際に立ち、球威をそのままバットに乗せて運ぶようにして打線を繋ぎ、5点をもぎ取った。

「相手の得意パターンにはまってしまった」と飯塚は試合を振り返る。1年の秋からエース。チームは自分が支えなければ、と気負った時期もあった。だが2年の夏が終わったとき、どんなチームが強いか、改めて周りを見回した。全員野球が勝てると気付き、バックに任せようと意識を切り替えた。ナインも心強い言葉で支えてくれた。「監督が選手の自主性にゆだねてくれたおかげです」。試合後その大井監督から「お前で負けたんならしょうがないよ」と声をかけられ、マウンドではけっして感情を顔に出さない男が涙を見せた。

 第2試合は猛打の応酬だった。ヒット数は敦賀気比15本、大阪桐蔭12本と敗退した敦賀気比のほうが多い。が、打線の繋がりで大阪桐蔭が勝った。特に1番・中村から峯本、香月と続く上位が着実に打点を稼ぐ。初回早々中村に本塁打が飛び出すと、2回には峯本が2ランを見舞う。敦賀気比も緩みなく攻め続けたが、取られたら取り返す大阪桐蔭ペースに傾いていった。

「打撃戦は予想していたので打ち勝ちたかった」と無念をにじませたのは、2打席連続本塁打を放った敦賀気比・御簗(おやな)。今大会では大差で勝ち進んできただけに、ベンチはこれまでにないムードに包まれたという。「でもみな最後まで逆転できると信じて、『繋げ、楽にいけ』と声を出していました」。

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