二人三脚で生きてきた熟年夫婦が第二の人生を踏み出す際、意外とつまずきがちなのが“家”の問題。それぞれの思い描く老後生活が一致しないせいだが、どうすれば円満に暮らし続けることができるのか。その秘訣を「間取り」から考える。
中高年になれば睡眠障害も起こりやすい。健康のためには別に寝たほうがよい、という意見もある。絶好のタイミングで別寝に切り替えたのがS夫婦(夫62歳、妻66歳)だ。7年前に2LDKのマンションから建て売りの一戸建て(3階建ての4LDK)に引っ越したのを機に、夫婦の寝室を2階と3階とに分けた。
Sさんはいう。
「僕らはすごい恋愛結婚だったし、30年間セミダブルで寝ていたんだけど、2人ともイビキが大きいんだよ。だんだんそれが気になるようになっちゃって」
とくに夫であるSさんは、55歳を過ぎたころから眠りが浅くなった。
「無理して一緒に寝なくてもいいんじゃないか?」
引っ越す前、使っていたセミダブルベッドを前におずおずと切り出すと、妻は「賛成」と即答。同じことを思っていたのだ。
「最初は寂しい気もしたけど慣れました。何よりぐっすり眠れます」とSさん。
しかし、いくらイビキや歯ぎしりがうるさくても、階や部屋を完全に分けるのが無理だったり、抵抗感がある人もいるかもしれない。そういう場合は「つかず離れず」の策がある。
『「間取り」の教科書』などの著書で“間取り博士”としても活躍する建築家の佐川旭さんが薦める2例。1つ目は、隣接していた子ども部屋などとの壁をなくし、枕の位置をずらしてベッドを置いたもの。
「頭の位置がずれただけでも、寝返りなどが気にならなくなる。壁を取るなら50万円以内でできます。さらに、耐震性が増すようなリフォームをすれば安心でしょう」(佐川さん)
2つ目は、引き戸で仕切り、部屋を奥と手前に分けた場合。行き来ができて、必要があれば閉めればいい。閉めても「気配が感じられる」のが利点だ。大金をかけなくても、光を通さないスクリーンや、木製ブラインドをベッドの間に吊るすだけで効果がある。
さらに老後、どちらかが具合が悪くなったら、仕切りを外したり、居間に畳コーナーを作ってまた一緒に寝たりしてもいい。
「間取りは生き物だから、ライフステージにあわせて自由に変えていけばいいんです。ただし、どんな場合も家族の基本は“団欒(だんらん)”で、寝室が別でも、長時間別々に過ごしても、絆のスペース=リビングを大事にしてほしい」(佐川さん)
家具も重要だ。例えばダイニングテーブル。会話しやすく食事もしやすく、離れがたくなるのは低め(65センチくらい)だという。
「多忙な場合でも、せめて朝は一緒に食事をするなど、意識することも大事ですよ」(佐川さん)
※週刊朝日 2014年6月6日号より抜粋