痛みを伴う検査はいくつかあるが、多くの女性に強烈な印象を植え付けているのがマンモグラフィーだ。乳がんの早期発見を目的としたこの検査、検査台の上に乳房をのせ、圧迫板とよばれる透明のアクリル板で乳房を押し広げたところにエックス線を照射する。個人差はあるが、多くの女性がこの「広げて押さえつける」という行為に、強い痛みを感じるのだ。

 乳房を押さえつけるのは、大きく二つの理由がある。一つ目は「画像の鮮明化」。乳房の中には乳腺が張り巡らされており、エックス線画像ではこれが白い線として映し出される。万一がんなどの腫瘤(しゅりゅう)があれば、これも白く浮かび上がってくるケースが多いが、乳腺と重なると見えにくくなる。これを防ぐため、撮影の際に乳房を強く圧迫して乳腺を押し広げ、より鮮明に抽出されるようにするのだ。

 もう一つの理由は「被ばく量の低減」。当然のことながら、乳房は厚みがあるほど放射線量も高くなる。これを少しでも少なくするためには、乳房をなるべく薄くすることが必要になってくる。

 こうした理由から「マンモグラフィーは痛い検査」というイメージが付きまとい、それを理由に検査を避ける女性も少なくない。乳がん検診の受診率を高める上でも、撮影時の痛み軽減は喫緊の課題なのだ。

「完全に痛みをなくすことはできなくても、少しでも軽減させ、画質を向上させることに寄与し、被験者の不安を払拭できれば」と語るのは、富士フイルム・メディカルシステム事業部技術マネージャーの村本綾子氏。同社ではマンモグラフィー検査時の痛みを和らげる圧迫板「FS(Fit Sweet)圧迫板」を開発し、2013年春から市場に投入している。

 これは富士フイルム製マンモグラフィー診断装置専用のオプション。素材は通常の圧迫板と同様のポリカーボネートで、乳房と接触したときに圧迫板が乳房の厚みに沿って傾斜する設計だ。

 さらに、前面(胸壁側)と両側面の3カ所にスリットを設けたことで、乳房を圧迫する圧力が分散されるように工夫が施されている。

 従来の平らな圧迫板だと、どうしても頂点に圧がかかるため強い痛みを引き起こしていたが、FS圧迫板は乳房の厚さに応じて微妙にたわむことで痛みが分散される。いずれも効果には個人差があるが、結果として過剰な痛みが軽減される。しかも、この「たわみ」は、乳房内部を押し広げる機能も高めるので、画像の精度も向上する。

「乳房を押し広げやすくなったため、撮影時の乳腺を従来より伸ばす効果があり、これにより被ばく線量も低く抑えることができるという導入施設の声もある」(村本氏)

 同社の女性社員を対象に行った調査では、10人中7人が「従来に比べて痛みが軽減した」と回答している。こうした地道な取り組みが、被験者の不安を小さくしていく。

 現在は30%台に過ぎない乳がん検診受診率。その飛躍的上昇を目指して、開発者たちの挑戦は続く。

週刊朝日  2014年3月28日号

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