ドラマや小説でみる医師への謝礼。実際に必要なのか、患者からするとメリットはあるのだろうか。病院選びのポイントや患者があまり知らない医療の世界の「常識」を分かりやすく解説する2月21日発売の週刊朝日MOOK「手術数でわかる いい病院2014」から紹介する。
「先生への謝礼は必要ですか?」
「いくらくらい包めばいいでしょう?」
医療関係者にとってはそう珍しくない質問であり、対する答えは「必要ありません」となる。
健康保険のもとで医師が行うすべての医療行為には「診療報酬点数」が設定されている。医療機関はその点数に応じた医療費を健康保険組合などの保険者と、一部を患者本人から徴収する。これが医療機関の売り上げだ。その組織の従業員である医師は、医療行為という労働の対価として給与を受け取る仕組みになっている。だから謝礼を渡す必要はない。
現金はもちろん、飴玉一つ受け取らないと公言する病院もある。だが「どうしても受け取ってほしい」と患者が申し出る場合など、現実には謝礼の授受が行われることもある。相場はいくらくらいなのだろう。
「教授クラスだと100万を超えることもあると聞きますが、中堅の講師クラスだと数万から多くて30万円。50万も入っていたら跳び上がりますよ」(首都圏の大学病院に勤務する外科系講師)
「3万、5万、10万というのが多いですね。学会出席のために大学からもらえる出張費には限りがあるので、その資金としてプールしておきます」(別の大学の外科系講師)
「『手術室の皆さんで分けてください』と渡された封筒に入っていた金額が500万円! さすがに400万を返して、残る100万をスタッフで分けました」(別の大学の麻酔科医)
やはり相場はあってないようなもののようだが、現在は民間病院の院長を務める外科医が口にした「5万円くらいがいちばん受け取りやすい」という証言が正直なところだろう。
だが、謝礼を受け取ったからといって、その患者を特別扱いする手段が医師にはない。医師にとって自分の治療成績は何ものにも代えがたい通信簿であり、謝礼の有無に関係なく、目の前の治療は絶対に成功させようとする。謝礼がないから手を抜くということはあり得ないのだ。
そもそも謝礼とは感謝の気持ちの表れ。ならば現金でなくてもいいはずだ。
「午前と午後の外来診療がつながってしまうような忙しいときに、おにぎりの差し入れをくれたおじいちゃんのことは忘れられない」(関西の公的病院の呼吸器科医)
「心のこもった手紙をいただくと、医者になってよかったとしみじみ思います」(首都圏の大学病院の脳神経外科医)
今回取材に応じてくれたすべての医師は、同じようなことを口にした。
「『ありがとうございました』と言われると、それだけで疲れが取れるんです」
言い換えれば、それだけ医師に感謝の言葉を口にする患者が少ないのだ。“袖の下”の金額に悩む前に、「ありがとう」という心を忘れず、治療に臨みたい。
※週刊朝日 2014年2月28日号