大混戦となったソチ五輪・フィギュアスケート男子代表選考。最後の一席に滑り込んだのは、高橋大輔(27)だった。長らく日本のエースであり続けた男は、ボロボロになり、涙を流し、それでも戦い抜いて、3度目の五輪出場をつかみ取った。ベテランにとって「集大成」となるソチへの思いを聞いた。
初めて出場した2006年トリノ五輪で8位。10年バンクーバー五輪では日本男子初のメダルとなる銅メダルを獲得した。その後の4年で、日本の男子には大きな異変があったという。
「日本代表のレベルがこんなに高くなるとは想像してなかったですね。みんなが切磋琢磨した結果でもありますけど、ぐっとレベルを引き上げたのは(羽生)結弦(ゆづる)。
彼の驚異的な成長のスピードが、みんなに火をつけたのは確かですね」
新たなエースの登場に、心強さも感じている。
男子代表3人の中でただ一人の五輪経験者で最年長の高橋。後輩ふたりと、どんな付き合い方をしているのか。
「あんまり先輩っぽくないですからね、僕。『ジュース買いに行くけど、買ってこようか』 みたいな感じです(笑)。(町田)樹(たつき)は行動も話す内容も独特だし、見ていておもしろい。結弦は若くて勢いがある。3人でいると、僕は2人を傍観している感じですかね。本当に三者三様でキャラが違いすぎ。なんか動物園みたいでおもしろいです」
悲願の金メダルには、4回転を含めたジャンプの成功が欠かせない。
「ジャンプに対する不安からは、まだ抜け出せていません。ただ、そこがよくなれば、すべてが変わる。『決めてやる』という強い気持ちで取り組んでいきたいですね。これまでジャンプがうまくいかなかったことで自信が持てなかったし、不安だから試合前の緊張感も増していた。そこが変われば、いけるんですよ。絶対に。ケガは完治していなし、痛みもひいたわけではないけど、少しずつよくなってます。この先安静にすれば治りますから」
2014年。高橋にとっては、「変化」の年になりそうだ。
「まず1カ月後のオリンピックまでに、『強い自分』に生まれ変わらなくては、と強く思います。ソチが終わったら、すべてが変わると思います。引退したら、人生も変わるだろうし。五輪後のことについて今は具体的に考えてませんけど、スケートから離れることは考えられません。これまで多くの人に支えられ、与えられてきたスケート人生。今度は僕が与えていくべきかなぁ、と。僕はスケートバカなんです。スケートは人生そのもの。やればやるほど難しく、奥深い。でも、もっと知りたい」
高橋がはにかんだ。
ラストチャンス。ソチの氷上で滑りきったとき、大輔は何を思うのだろうか。
※週刊朝日 2014年1月17日号