年間約6万人が新たにかかる乳がん。標準治療は手術による乳房切除だ。そのとき問題になるのが乳房を残すか取るかだ。昨今では全摘出して、新たに乳房を再建する方法が注目されている。

 乳房再建術は、シリコンなどの人工物(インプラント)を入れる方法と、自分のおなかや背中などの組織を採取して入れる自家組織移植による方法がある。どちらにするかの選択は、患者個々の希望はもちろん、乳房の大きさ、形、体形、体質、年齢などさまざまな要因を考慮して決められる。三重県在住の主婦、広瀬美加子さん(仮名・46歳)は、自家組織による再建手術を受けた一人だ。

 市立四日市病院乳腺外科部長の武石明精(たけいしめいせい)医師が広瀬さんに実施した乳房再建術は次のような方法だ。残っている左の胸の上にゲル状のシリコンを流し、硬化剤を混ぜて乳房の型を取る。10分ほどで固まったら胸からはがし、そのくぼみのなかに同じシリコンを流し込み、胸の鋳型を作る。同時に、人工の乳輪、乳頭も作る。その型を元に腹部を切開し、自家組織であるおなかの脂肪を血管とともに採取。脂肪を鋳型と同じ形に作り上げ、血管をつないだ後に、皮膚の下に挿入する。形を微調整して、皮膚の上から人工の乳輪、乳頭を医療用の糊で装着して完了だ。乳輪、乳頭は後から自家組織による再建もできる。

「以前の自家組織による再建術では、脂肪をどのあたりにどの程度入れるかは医師の経験に基づく勘と技術に頼ることが多かったのですが、鋳型を作ることによって、技術の差が出ることが少なく、再現性のある仕上がりを期待できます。これから手術を受ける方は、手術前に切除する胸の型を取ってから手術にのぞむことができます」(同)

 武石医師が「計量法」と呼ばれるこの方法で、約180例の乳房再建を実施、愛知県がんセンターや県立静岡がんセンターとともに普及に努めている。治療は保険適用で、鋳型のシリコン代は5万円ほどで済む。

「現在、さまざまな再建の方法が考案されていますが、いろんな大きさや形の乳房への対応、乳房の切除範囲、年齢、体形など幅広く対応できることが大切です。さらに患者さんの負担や医療コストが考慮され、平易で再現しやすい技術が治療の普及には重要だと思います」(同)

週刊朝日  2013年12月27日号

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