永遠の別れを前にして、大切な人に伝えたい思いとは何か。その言葉には故人への愛が込められている。2013年1月15日に肺炎のため亡くなった映画監督の大島渚(享年80)さんの告別式で作曲家の坂本龍一さんが贈ったラストメッセージを紹介する。
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大島監督。あなたが亡くなられてから、追悼のために大島祭りをやっております。あなたの処女作「愛と希望の街」から順番に見てきました。
(私が)最初にあなたの映画に出合ったのは15、16歳の時。最初に見たのは「日本春歌考」です。
今でも1、2位を争う好きな作品です。それ以来、あなたは僕のヒーローになりました。そのヒーローであるあなたがたった一人で台本を脇に抱えて、私に会いに来てくださいました。
あなたは私に、「映画(『戦場のメリークリスマス』)に出てください」とおっしゃいまして、それまで映画の経験がない私は、無謀にも「音楽をやらせてください」と頼みました。あなたは「いいです。お願いします」と即答されました。そこから全てが変わりました。
今日あるのは、大島監督あなたのおかげです。一緒に行ったカンヌの日々も忘れられません。
「御法度」の時に懐かしい顔が一堂に会したことも忘れられません。
あなたは本当に偉大な映画監督であり、偉大な人間でした。あなたのように社会を厳しく叱る人間がいなくなり、日本は少しつまらない国になったのかもしれません。
現在の日本という国を見てあなたはどう思っておられるのでしょうか。あなたの全てにありがとう。安らかにお休みください。
※週刊朝日 2013年12月20日号