ソチ五輪への出場枠は「3」。群雄割拠の男子フィギュアスケート界に、きら星のように現れた町田樹、23歳。優雅さと獰猛(どうもう)さを併せ持つ圧倒的な表現力に、観客は総立ちになる。「フィギュアは舞台芸術」と語る町田は、約4年前ある選手と出会い、大きく変わったと話す。
「スイスのステファン・ランビエルという選手なんです。彼はトリノ五輪の銀メダリストで、非常にアーティスティックな選手。彼が2010年に引退したあと、一緒にプログラムや表現について話したことで、さまざまなインスピレーションを与えてもらいました。それ以降の僕は、フィギュアスケートをスポーツとしてよりも芸術としてとらえるようになった。この出会いがなければ、僕はもっとアスリート寄りのフィギュアスケーターだったと思います」
最後にソチ五輪への思いを聞くと、意外な言葉が返ってきた。
「スケートをしていても、つらいことばかりです。日々の練習もつらいし、試合で勝てることもたまにしかありません。でも、良いときも悪いときもフィギュアスケートと向き合って、あきらめずにコツコツと努力を続ければ、いつかいいことがあると信じられる。99%はつらいことばかりだけど、その先には、1%の光がある。99%の苦難から得られた1%の光はすごく価値があるものです。
だから万が一、ソチ五輪出場を逃したとしても、絶望することなく人生を歩んでいければ、いまの経験は、必ずや人生における勝利につながると、僕は信じています」
※週刊朝日 2013年12月13日号