福島第一原発での収束作業における「下請け」の驚きの実態が浮かび上がってきた。高い放射線を浴びる最前線の危険な作業は4~5次下請けにやらせ、ピンハネや偽装請負が横行。状況は一向に改善されず、現場を請け負う作業員の士気は下がる一方という。ジャーナリストの桐島瞬氏ほかが取材した。
契約内容の違いを担当者に訴えた結果、1年の契約期間どころか作業初日で首になり、職を失った林哲哉さん(41)は個人で入れる労働組合の派遣ユニオンに加入。解雇、偽装請負、危険手当の中間搾取に関して昨年8月以来、東電からRH工業までを相手に団体交渉を求めてきた。しかし、すでに解雇については和解したRH工業を除いて交渉に応じる気配がないことから、東京都労働委員会に救済命令の申し立てを行った。派遣ユニオンの関根秀一郎書記長が言う。
「労働者が安全に働ける環境の整備やピンハネした額の支払いを要求したりして、各社に団体交渉を申し入れています。例えば、東電は日当5万円ぐらい支払っているはずですが、林さんには1万3千円しか渡されていない。ですが各社、『雇用関係にないから団交には応じられない』と拒否をしているのです」
団交に、発注者である東電を引っ張り出すことはできるのだろうか。派遣ユニオンと協力して申し立ての準備をした担当弁護士の水口洋介氏が言う。
「通常、発注者は下請け労働者との間で団交に応じる義務がないというのが法律解釈です。しかし、福島第一原発における東電は通常の発注者とは違う。東電が具体策を講じない限り、こうした問題は解決しない」
水口弁護士は次のような例を挙げる。
「東電が元請けとの契約条項に『下請けを使った場合でも、必ず労働者に定められた危険手当を支払う』との約束を入れれば、下請けには義務が出てくる。労働条件や安全対策にしても同じで、つまり東電がキーなのです」
だが、これでも抜け穴があり、十分ではない。
「末端の作業員に危険手当が行き渡るよう、ある元請け企業がカネの流れを追跡したことがあります。書類を用意し、各下請けごとにきちんと支払ったという判をつかせ、最後に作業員の受領印をもらい、その書類を元請けに戻す。ようやく危険手当がもらえると胸を撫で下ろしたら、私の上位に当たる下請けの一社からこう言われたのです。『危険手当は支払う。代わりに日当を減らす』。それを聞き、働く意欲が失せました」(第一原発作業員)
こうした悪質な業者がいる限り、危険手当だけでなく、すべてのカネの流れをガラス張りにしないとダメだろう。以前から問題が指摘されているにもかかわらず状況が変わらない一番の原因は、水口弁護士の言うように東電が本腰を入れた対策を取らないからにほかならない。
※週刊朝日 2013年12月13日号