効率的な勉強方法とは? 早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏が、ズバリこの質問に答える。

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 朝日新聞の読書欄の「読むぞ! ホップ ステップジャンプ」というコラムを3ケ月に1回担当している。ひとつのテーマを決めて関連する3冊の本を紹介している。このコラムに取り上げた本は総じてよく売れ出すようで、著者や出版社から感謝されることも多い。自分の本は余り売れないのに、他人の本の売り上げにばかり貢献している気がしないでもないが、まあ気に入った本が売れるのは自分の本でなくても少しはうれしい。

 前回(2013年10月)取り上げたテーマは「なぜ勉強するの?」。コラムの内容は重複するのでここには書かない。ここでは、勉強に関し、日頃思っていることを述べてみたい。勉強は「強いて勉める」わけだから、字義通りならば、楽しいのは勉強とは言わないのかもしれないが、いわゆる勉強をしているうちに楽しくなることは確かにある。

 私事になるが、小学校低学年の頃、私は余り勉強のできる子ではなかった。小児結核で幼稚園に行けなかったので、小学校に入学した時はひらがなが書けなかったのだから、勉強ができないのは当たり前だ。でも、高学年になると、国語の教科書は手に入れた途端に、すぐ読んでしまって、ほぼ暗記していたので、どこかで好きになったのだろう。自分の経験が一般化できるかどうかはよくわからないが、それで私は、字は小学校に入ってから習っても手遅れということはないし、一番効率がいい勉強方法は独学だと思うようになった。

 今の若い人に言っても信じてもらえないだろうが、私の大学時代はストライキとロックアウトで講義はほとんどなかった。大学の講義は1年次に多少受けただけである。大学に楯突いていたので4年では卒業させてもらえずに、卒業には5年かかったが、いずれにせよ、2年次から5年次までは、ほとんど講義はなかったし、たまにあってもさぼって受講しないことの方が多かった。

 何をしていたかと言うと、麻雀である。一日80本もたばこを吸って、たんを吐きながら麻雀ばかりしていて、よく死ななかったと思う。勉強をしている気分はなかったが、生物学の専門書や哲学書や評論は割によく読んだと思う。嫌いな本は読まなかったし、つまらない講義は出なかった。知識はほぼすべて独学で得た。

 私のまねをしろと言うつもりは全くないが、勉強と称して興味のないことにエネルギーを注ぎ込むのはムダである。興味のある分野で新しい知見を得るのは実に楽しい。そのために最も効率の良い方法は独学なのである。

週刊朝日  2013年11月29日号