日本語では「孤立無業者」と評されるSNEP(スネップ・Solitary Non―Employed Persons)。「20~59歳の未婚の無業者のうち、普段、ずっと一人でいるか、もしくは家族以外に接する相手がいない人たち」だが、そんな存在が注目を浴びている。
神原淳一さん(仮名・45歳)は外資系IT企業の元社員。在職時は販売営業チームのサブリーダーを務め、ピーク時の年収は約1200万円。だが、42歳で同社を退職して以来、3年以上定職に就いていない。神原さんは語る。
「きっかけは早期退職者募集に応募したこと。6年間しか働いていませんでしたが、退職金は約1千万円。外資系に勤めてよかったと思いました(笑)」
退職の2カ月後には知人のツテで、精密機器メーカーの営業部長として迎え入れられることが決まっていた。しかし、神原さんが転職することはなかった。
「独身ですから、自由気ままに海外旅行をしていました。しかし、旅先で転職の話が白紙になったとメールが届いたんです。お家騒動で会社の体制が突然変わったということでした」
帰国後、採用担当者から、改めて「やはり採用は難しい」と言われ、結局3カ月分の給料に慰謝料を上乗せした200万円を受け取る条件で合意した。この時点では「すぐに次が見つかる」と思っていたという。ところが、半年経っても仕事は決まらない。神原さんは振り返る。
「正直、それまで職探しに苦労したことはなく、ハローワークを利用したこともなかったんです。自分には関係のない場所だと思っていたからショックでした。しかも、求人の年齢制限に引っかかり、応募できる企業は限られていました」
退職金や転職内定取り消しの慰謝料のほか、以前からの蓄えもあった。神原さんは、贅沢さえしなければ当分の間は生活に困る状況ではなかった。
「余裕があったから仕事を探そうというモチベーションを失ってしまいました。元外資系勤務というプライドも邪魔して、退職から1年経ったころには求職活動自体をやめていました」
図書館で本や新聞を読んだり、自宅でDVDを見て過ごす日々が続いた。神原さんは続ける。
「ただ、さすがにこれじゃマズいと思い、スキルアップのための勉強はしています。独学で中国語を勉強しているだけなんですが(苦笑)」
軽く聞こえる言葉以上に、現状には危機意識を抱いているようだ。さらに、神原さんは、悩みを打ち明けられる友人が一人もいないと自嘲気味に語る。
「付き合っていた人間は仕事関係ばかり。職を失ったら孤独になった。SNEP(スネップ)という言葉はまさに自分のことだと思います。」
取材した先には、親の介護とリーマンショックが重なり、職場を去った元大手証券会社のアナリスト、起業に失敗した元大手商社マン、事故による長期療養で退職した元銀行員など、元エリートのSNEPも珍しくなかった。
「本当は仕事がしたい。でも、今の社会は再チャレンジが難しい」(神原さん)
※週刊朝日 2013年11月22日号