24勝を挙げ、球団の日本シリーズ初優勝に大きく貢献した田中将大投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)。しかし入団当時、監督を務めていた野村克也氏は、彼の将来に関わる大きな後悔があるという。
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1年目のうち、どこかで彼を2軍に落とそうかと考えていた。18歳で鳴り物入りで入団して、うぬぼれたり天狗(てんぐ)になったりする可能性がある。下積みを経験させたほうが、彼の将来にとってプラスになるのではないか。日の当たることが少ない2軍で、どうすれば1軍に上がれるのか、悶々(もんもん)とさせる日々が若い彼には必要ではないかと考えたのだ。
しかし、直接話をしてみると、受け答えがしっかりしていて、謙虚だった。彼ならうぬぼれることはないだろう。先発がいないチーム事情もあった。
ところがプロ入り初先発から3試合連続で勝ち星がつかず、精彩がない。ここで改めて2軍に落とすことも考えたが、初心貫徹で1軍に残した。ただ不思議だったのだが、ノックアウトは食らうのだが、マー君に「負け」がつかないんだよ。点を取られて降板したあと、打線が盛り返して逆転してマー君の「負け」を消してしまう。思わずそこで出てきた私のコメントが、《マー君、神の子、不思議な子》だった。後にこのコメントは独り歩きして、「神の子・田中」など引用されるが、そもそもはノックアウトされた試合から生まれたんだよ。
1年目から結果を残してくれたし、彼の今の性格が傲慢(ごうまん)だとも思わない。それでも彼の将来の人間形成のためにも、1年目に2軍を経験させたほうがよかったのかなあと、今でも思う。
※週刊朝日 2013年11月22日号