10月16日午前、関東の東海上を北上した台風26号。記録的な豪雨に見舞われた伊豆大島(東京都大島町)では土石流が発生し、住宅が流され、約50人の死者・行方不明者が出た。
大金沢(おおがなさわ)のすぐそば、大島町元町家の上にある長島健二郎さん(33)の一軒家は、跡形もなく流された。健二郎さんは16日、隣の神達(かんだち)地区で、土砂の中から遺体で発見された。
健二郎さんが伊豆大島に移り住んだのは、つい最近のこと。大島空港で荷物積み下ろしなどの仕事をするため、7月に引っ越してきたばかりだった。
引っ越し当日、健二郎さんは双子の弟の徳和さんと川崎市内で会い、
「仕事がんばるよ」
と笑顔で話していた。
のんびり屋の一方で、几帳面できれい好き。仲のよかった兄の被災を、徳和さんは父から知らされた。信じられなかったが、行方不明者の発表に、兄の名前があった。ただ無事だけを信じ、大島行きのフェリーに飛び乗った。
荒れ果てた三原山の急な斜面を歩いた。ひたすら歩いた。兄が住んでいたはずの住所には、流木や土砂が積もっているだけ。兄の姿を捜す手がかりすら見つからなかった。
「黒のスカイラインは?」
自衛隊員や消防隊員とすれ違うたびに、そう尋ねた。兄の愛車だった。地面に黒い破片を見つけると、目を凝らして車の影を探した。車に乗って逃げていてほしい––。祈りを込めた。
「僕にとって兄は、家族である前に親友みたいなもの。だって双子なんですから。でも、なんで兄貴がこんな目に……」
徳和さんは瓦礫の上に立ち尽くし、涙を浮かべながら声を振り絞った。結局、祈りは届かなかった。
※週刊朝日 2013年11月1日号