原因がはっきりしないことの多い、慢性的な体の痛み。慢性化することで、心理的、社会的な影響も出てくるという。厚生労働省「慢性の痛みに関する検討会」メンバーであり、愛知医科大学病院痛みセンター部長の牛田享宏医師に慢性の痛みに対する治療の現在について話を聞いた。

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 慢性の痛みには変形性脊椎症や腰痛症などの筋骨格系による痛みと、神経疾患やリウマチ性疾患などの内科的疾患による痛み、さらには線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群(CRPS)など原因不明の痛みまで、多種多様なものがあります。

 ところが、痛みは慢性化するにしたがって、身体的な問題だけでなく、心理的、社会的な要因も働いて、患者の生活の質を低下させます。これまでは慢性の痛みに対して各診療科の医師がそれぞれの専門分野で治療を行っており、必ずしも最適な治療ができていたとは言えない状況にありました。

 そんななかで厚生労働省「慢性の痛みに関する検討会」は、2010年9月に提言をまとめ、慢性の痛みに対する診療科の枠組みを超えた集学的なチーム医療の必要性を訴えました。現在では11大学に痛みセンターを立ち上げて、慢性の痛み治療に対する専門的な治療法の確立と、医療者や患者への教育などを進めています。

 そこでいちばん重要となってくるのが、痛みの治療には身体的な問題だけでなく、心理的な要素や社会的な要素を捉えなければならないということです。

 患者によって不安を感じやすいかどうか、慢性の痛みを抱えることによってどのような社会的な損失を被っているかは違います。

 そこで整形外科や麻酔科、精神科など専門スタッフによる診断をもとに、それぞれの患者の状況に合わせて、鎮痛剤の投与や理学療法などの身体的治療や、カウンセリングや抗うつ剤投与などの精神的・心理的治療を組み合わせて行うことが大切です。

 もうひとつ重要なことは、患者ごとに治療のゴールを決めることです。慢性の痛みは改善することはあっても、完全に痛みがなくなることはまれです。

 それよりも何ができるようになったら患者の生活の質が上がるのかを考えて、医師をはじめとする医療者と患者が協力しながら「散歩がしたい」「ゴルフに行きたい」などの具体的なゴールを目指していくことが肝要です。

週刊朝日  2013年9月13日号