経営破たんから再び上場した日本航空。その立役者となった名誉会長・稲盛和夫氏は週刊朝日の連載「これが私の生きてきた道」の中で、その再建の過程を振り返る。

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問 稲盛さんが塾長を務める経営勉強会「盛和塾」の世界大会が今夏、横浜で開催され、国内外の約4400人の塾生が参加。会場には日本航空(JAL)の赤いハッピを着たスタッフが大勢いましたが、なぜでしょうか?

答 私がJALの会長を引き受けたとき、何か手伝いができないかと、盛和塾の塾生たちが「JALを支援する55万人有志の会 JAL応援団」を立ち上げてくれました。当時5500人いた塾生が一人あたり、100人に「JALに乗ろう」と声かけすれば、55万人になるという計算でした。

問 55万人も本当に搭乗したのですか?

答 正確な搭乗者数まではわかりませんが……。さらに塾生らは名刺サイズの「応援メッセージカード」を作って、JALに乗ったとき、それを書いて大勢のJAL社員に渡し、励ましてくれました。その上、塾生らは6万羽の鶴を折り、何十本もの束にして、JALに持ち込んでくれたのです。感激したJALの社員が、その千羽鶴を全国の職場に配りました。そんなことがあったものですから、支援してくれた塾生に何か恩返しをしたいと、大会のボランティアスタッフを買って出てくれたんです。

問 再建中のJALに対する世間の目は厳しいものでしたか?

答 JALは長年、お客さま視点を欠いた経営をしていたのだから、倒産は当たり前だと思われていました。株主にとっても、株券が紙切れになってしまったわけですから、JALに対するお怒りは当然でした。整理解雇も断行され、全社員が四面楚歌。非常に肩身が狭い思いをしているときに、盛和塾生が応援団となってくれた。まさに干天の慈雨と感じたのではないでしょうか。

問 JALが再生し、会長がよくおっしゃる「善意の連鎖」が起こったと?

答 そのとおりです。善、すなわち善きことが善きことを呼んで、次々と連鎖反応を起こしていく。善を他の言葉に言い換えると“利他”になります。要は他人への思いやりなんですが、それを受けた人は、さらにその心を他者に伝えていくように思えます。つまり、善は循環し、伝播(でんぱ)していく。だから、仕事を通して利他行を積んでいくことは大事なのです。

問 きれいごとだけで仕事はできないのでは?

答 「自分さえよければいい」という“利己”の考え方では、最初はうまくいってもやがて軋轢(あつれき)や障害が生じ、うまくいきません。利己だけを追求していくと、仕事も人間も成長が止まってしまうのです。利他は一見、回り道のようですが、「情けは人のためならず」、自分に戻ってくるものです。

週刊朝日 2013年9月6日号

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