今季プロに転向し好成績を残しているゴルファーの松山英樹。一方、同年齢で先にプロデビューを果たした石川遼の今季の成績は芳しくない。プロゴルファーの丸山茂樹氏は、そのことを「石川超え」と言いたがる日本のマスコミに苦言を呈する。

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 石川遼と松山英樹は同学年ということもあり、何かと比較されてきました。最近は「松山は石川を超えた」なんて言われ方もしています。あれには強い違和感を感じるんですよね。

 遼は今季から米PGAツアーに本格参戦しました。8月1日現在、20試合に出場して9試合で予選落ち。トップ10は一度だけ。6月には帰国して日本ゴルフツアー選手権にも出ましたが、予選落ちでした。今季プロに転向した英樹は、国内の賞金ランキングで1位を独走。6月の全米オープンで10位、7月の全英オープンは6位。来季のPGAツアーのシード権獲得も視野に入っています。

 世界ランキングも8月1日現在、英樹の33位に対して遼は158位です。たしかにいま、二人は明暗が分かれていると言えるでしょう。でも、それだけのことなんです。「超えた」なんて言うのは早すぎる。

 日本のメディアの悪いところで、何の実績もない、記録も残してない人がポッといいパフォーマンスをすると、実績十分の人を「超えた」なんて言いたがる。

 日本のプロ野球でも、イチローが日本で残した記録を破りそうな選手が出てくると、「イチロー超え」なんて表現する。世界で本当の意味でイチローを超えてる人なんて、数人しかいませんよ。なのに見出しで目立たせたいがために、そう書く。僕には賛成できませんねぇ。プロ選手には歴史がある。それをもっと大事にしてもらわなきゃ。

 英樹が遼を超えるには、まず遼の記録を全部塗り替えて、それで初めて「超えた」と。それでいいじゃないですか。日本の賞金王になって、日本ツアーで10勝して。本当に英樹が強いのなら、数年後にその瞬間が訪れるはずです。いまの英樹は間違いなく立派。でも、誰かと比べなくたっていい。これを長年続けていってほしいんです。

 

 僕は23歳で初優勝してから、PGAツアーから撤退する2008年までの15年、トップレベルの戦いを続けてこられました。世界ランキング50位以内をほぼずっと守ってきたのは、ジャンボ尾崎さんと僕ぐらいしかいない。いわゆる一つの継続力ですね。これは僕の唯一の自慢です。

 一瞬、花火を上げるだけなら誰でもできます。でも、一発屋芸人じゃダメ。ビートたけしさん、明石家さんまさんにならないと。歌手ならCDが1曲だけ100万枚売れたってダメ、紅白歌合戦に何十回連続出場っていう、北島三郎さんみたいにならないと、継続、継続ですよ。

 最後に遼について。PGAツアーは時差を伴う移動がガンガンある中で、ただ者ではない選手たちと戦わなくてはならない。これは本当に過酷なんです。ずっと日本でやってたら、いまも「強い石川遼」を見せられてると思いますよ。でも、出ていったことに意義がある。

 いまある現状に耐えていること自体が、遼にとっての上積みだと思う。鼻っ柱をへし折られる経験は人生の中で絶対に必要だから。これでつぶれるならそれまでだし、「悔しさをバネにして頑張る」と言うなら、僕らは「遼の底力を見せてやれ」と言えるし。まあ、ここからですよ。

週刊朝日 2013年8月16・23日号