「芸者遊び」にハマる中高年女性が増えている。「どうせお金持ちの奥様でしょ?」と思いきや、そうではない。普通のオバサンたちが今、花柳界を闊歩しているのだ。そして芸者衆も女性客を歓迎しているという。花柳界ライターの浅原須美氏が徹底ルポした。
「イーヨッ! おねえさんは、お強い、イイ女!」
ああ……五十路を過ぎて「おねえさん」と呼ばれる快感。久しぶりに浴びるほめ言葉のシャワー。きれいどころの芸者衆に囲まれて、気分はまさにお殿様。
ここは東京・浅草花柳界の某料亭。乾杯から1時間半ほど過ぎたお座敷は、〈虎・おばあさん・槍を構えた武将〉で勝負する拳遊び「とらとら」で最高に盛り上がっていた。
負けたら飲むのがお座敷ゲーム独特のルールだ。これを「罰杯(ばっぱい)」という。
芸者衆が、負けて悔しがる女性の盃に酒を注ぎ、手拍子を打ちながら「ソーレソレソレ」と囃す。クイッと飲み干したところで、すかさず「イーヨッ!」と冒頭の殺し文句。
ゲームに負けてもお酒は強いイイ女、と敗者を立てるさすがの気遣いに、拍手と大歓声が湧き起こる。
料亭のお座敷で、料理やお酒をいただきながら、芸者衆のおもてなしを堪能する「お座敷遊び」。今、そんな非日常の楽しみにハマる中高年女性のグループが、全国的に増えている。
筆者は20年ほど前から各地の花柳界を取材し続け、これまで全国四十数カ所の花街に足を運んできた。
その過程で、自分とは無縁と思っていた花柳界が一般の女性にも客層を広げ始めていること、少し背伸びすれば十分手の届く金額で芸者さんを呼べることを、驚きと共に知る。目からウロコだった。これを見逃す手はない。
以来、友人知人を募ってお座敷遊びの会を主催したり、料亭や花街が企画する会に参加したり、各地の花街関連のイベントに参加したり――。
新橋、赤坂、芳町、神楽坂、浅草、向島、八王子など都内をはじめ、新潟、金沢、京都、盛岡、長崎などにも足を延ばし、取材と研究と趣味を兼ねて“花街巡り”を続けている。
そして、ある重大なことに気がついた。“芸者遊びは男の遊び”という発想は時代遅れだ、むしろ女性好みの要素満載の、女性向きの遊びなのだと。
お座敷に集まる顔ぶれは、キャリアウーマンから子育ての一段落した専業主婦までさまざま。日本舞踊、三味線、着物、歌舞伎など和の文化に興味があり、「チャンスがあれば一度来てみたかった」という人も多い。
昔、踊りを習っていたという主婦(52)もその一人。「芸者さんて、もっと距離のある存在だと思っていたんです。まさかこんなに気さくに話せて、笑わせてくれるなんて。それでいて仕草も気遣いも完璧。女性としてお手本にしたいところがたくさんありました」と大満足。今度は娘さんを連れて来たいと話す。
※週刊朝日 2013年8月2日号