ロムニー氏の敗退で、米国の株高、円安は幻? 投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表、藤巻健史氏は米大統領選の結果を「日本にとっては残念なことだった」と指摘する。
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予想されていたとはいえ、大統領選後の米国民の関心は、来年1月に直面する「財政の崖」問題に急速にシフトした。減税の終了と連邦予算の歳出の強制的な削減が同時に起こり、景気が急速に落ち込む可能性があるという懸念である。
大統領選後の、もう一つの注目点は一昨年に成立した米金融規制強化法(ドッド・フランク法)が本格的に施行されるか否かである。オバマ氏が再選された結果、本格施行の可能性が高まった。ドッド・フランク法は、銀行が自らの資金でのディーリング(プロップ取引という)をすることやファンドへの出資を規制する法律だ。
日本では、「銀行はリスクを取らないことが本来のあり方だから大した問題ではない」と考えがちだが、米銀ではこのプロップ取引が生み出す利益は極めて大きかった。私がモルガン銀行時代に、世界中の資金為替部長経験者10人弱とともに行っていた取引だ。これが禁止されると米銀の収益力はかなり落ちる。
現在、史上最高値に迫ろうとしている米国株の足を引っ張ってきたのは、金融株だ。この法律の施行に備え、米メガバンクがすでにプロップ取引を控える態勢に入ったからだ。米メガバンクの純利益は、以前は数兆円にものぼっていたのに、いまや約1兆円レベルにまで落ちてしまった。日本のメガバンクの純利益は年間数千億円だが。
もしロムニー氏が大統領になっていれば、この法律を書き換える可能性があった。そうなれば米国株は、金融株を主エンジンとして軽く史上最高値を更新したであろう。
米国の株高は日本株をも押し上げたろうし、景気回復に伴う米国の金融緩和の終了でドル高円安にもなったであろう。円安は家電メーカーを蘇生させる。その点でロムニー氏が大統領にならなかったのは、日本にとっては残念なことだったと私は思うのだ。
※週刊朝日 2012年11月23日号