アンチのように“負の力”が働いてしまうことがある一方で、閉鎖の危機にあった大阪のスケートリンクがファンの寄付によって救われたという話もある。この時は、かつてそのリンクで練習をしていた高橋大輔らの呼びかけでファンなどから1億5000万円の募金が集まり、リンクの存続を後押しした。匿名で1億3000万円という大口の寄付をした方まで現れるなど、選手とファンが一体になって競技の振興を助けた稀有な例もある。

 最後に、スポーツは勝敗が分かれるものであり、応援する側もそこに重きを置いて楽しむものだが、フィギュアファンは違う部分に価値を見出している印象を受けた。今回話を聞いた加藤さんも、勝ち負けのあるスポーツ観戦は好きではなく、美しい演技を披露する羽生を中心に「フィギュアの芸術的な側面」を楽しんでいると教えてくれた。

 フィギュア大会のテレビ中継を見ていても演技終了後に、どの国のスケーターであってもその選手の出身国のバナーを振るファンの姿は今や見慣れた光景となった。選手やコーチたちの場合も国境を越えて演技や技術を高め合うのはフィギュア界では慣例となっている。

 そう考えると、フィギュアの世界ではファンも含め“新たなスポーツの在り方”を提示しているようにも思える。今後もそういった環境で、フィギュアファンが今までにないスポーツの楽しみ方を提供してくれるかもしれない。

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