下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「アジアはいつも薄曇り」(隔週)、「タビノート」(毎月)
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見た目以上のボリューム感がある。米ですから
見た目以上のボリューム感がある。米ですから

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第19回は「中国で出合ったサンドイッチ」について。

【写真】朝食にぴったり? 中国の成都で購入した「紫色面包」

*  *  *

 この連載で台湾の焼油條を紹介したことがある。

 焼餅というのは、表面をパリっと焼いたパン。油條は台湾だけでなく、中国や東南アジアでよく食べられている棒状の揚げパンである。お粥に浸して食べることも多い。日本の揚げパンに比べるとだいぶ軽い。サク、サクッとした食感を僕は気にいっている。

 バンコクに滞在しているときもよく食べる。豆乳とこの揚げパンは朝食の定番でもある。

 で、焼餅油條──。油條を焼餅で挟むスタイルで出される。焼餅の具が油條と考えてもいい。台湾の朝食としては存在感を放っている。

 はじめてこれを口にしたとき、ルール違反だと思った。パンをパンで挟んでいるのだ。卵焼きを一緒に挟む人もいるが、基本的にはパンとパンである。お好み焼きをおかずにご飯を食べる関西人を東京の人は揶揄するが、焼餅油條は、そのはるか先にある粉物アレンジに映ったのだ。

 台湾のパンのパンサンドイッチへのわだかまりが解決もせずにいるのだが、中国の成都でその上をいくサンドイッチに出合ってしまった。

 成都東駅近くのホテルに泊まっていた。朝早くに空港に向かわなくてはならず、駅前の土産物屋兼雑貨屋のような店でサンドイッチとジュースを買った。サンドイッチの品名はよく見なかった。食パンが3枚。その間にジャムのようなものが挟んであったので、迷わずに買ってしまった。

 ホテルの部屋でそれを食べた。ひと口かじって、悩みに火がついた。

「米?」

 もうひと口食べてみる。

 米だった。

 紫色の米を砂糖入りのココナツミルクで煮込んだ感じだ。甘いココナツミルク風味お粥をジャム状になるまで煮込み、食パンに挟んだ……そういえばわかるだろうか。

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