かつては「ブルートレイン」の愛称で親しまれ日本各地を駆け巡った寝台列車だが、いまやわが国では希少種と化してしまった感がある。しかし、諸外国に目を向ければまだまだ活躍中の鉄路も多い。それら寝台列車が走る国のなかから、タイの現状を紹介してみたい。
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■長距離輸送の主役格としての存在感は十分
タイ王国の首都・バンコク。その中央駅に相当するのがクルンテープ駅で、古都・チェンマイ方面へ北上する北線やマレーシア方面を目指す南線、イサーンと呼ばれるタイ北東部に延びる北東線などのターミナルとして機能している。
古式ゆかしいドーム型の駅舎の先にはドーム屋根に覆われたプラットホームが頭端式に並び、起終点駅としての貫禄も十分。夕刻を迎えると寝台車を連結した長距離列車が順次旅立ち、そんな情景を眺めているだけでも旅情を刺激されずにはいられない。……そんな駅である。
現在、タイ国鉄で夜行列車が運行されているのは、先に挙げた北線(チェンマイ方面)と南線(パダンブサール/スンガイコーロク方面)、北東線(ノンカーイ/ウボンラーチャターニー方面)の3路線7方面。寝台車を連結する夜行列車は図表(※1)のとおりで、その本数は17.5往復にのぼる。いずれもクルンテープ駅を起終点としており、南線列車の一部はガンタンやナコンシータマラートといった支線にも直通運転されている。
タイ国鉄では、日本にも見られるように列車種別や設備によって列車の緩急や運賃・料金を区分けしているが、寝台車つき列車は特急(SPECIAL EXPRESS)や急行(EXPRESS)のほか快速(RAPID)にもあり、そのぶん利用にあたっての汎用性が高いともいえるだろう。
■2等寝台でも日本ならA寝台?
タイ国鉄は等級制が採られており、寝台車は1等と2等で運用されている。
1等寝台は2段ベッドを備えた個室形式だが、部屋売りでない点は日本の個室寝台と大きく異なる。したがって、1人で予約すると見知らぬ人と同室する可能性もあるが、「マオホーン」と呼ばれる占有料金を別途支払うことにより1人利用とすることも可能。また、個室位置によっては、個室間の扉を開ければ4人個室に早変わりする。予約時に男女のチェックはされており、見知らぬ男女で同室ということは避けられているが、寝台ごとのカーテンもないため、1人での利用にはやや不安を覚えるかもしれない。