――番組の成功を受けて、いろんな企業から「革新的なアイデアを生むには?」「若い世代に向けた講演を」などの依頼があるそうですね。
働いてると言われがちじゃないですか。「若い感性でアイデアを出せ」とか「斬新な◯◯」「革新的な××」。こういう言葉、みんな好きですよね。でも「経験のないやつにそんなこと、できるわけないじゃん」って思うんです。
誰だって新しいことはしたいし、世の中テコ入れしたい会社ばっかりですよ。でもアイデアなんて蓄積したものを絞って絞って、やっと一滴出るもの。種も撒いてないところから芽が出るわけないでしょ。「新しい発想で」なんて簡単に言うけど、新しい細胞や星をみつけるぐらいすごいことですよ。毎日顕微鏡のぞいたり、夜空を観察し続けた人にしか見つけられない。それが経験ってもんです。
一番の弊害は掛け声ばっかりで前進した気になっちゃうこと。実際には一歩も進めてないのに、声だけ大きかったやつが「結果は残念だったけど、あいつは最後までポジティブだった」なんて評価されたりして。変な話でしょ。
見つかりっこない「新しい発想」にこだわってないで、今までの考え方をちょっと変えてみる。見る角度を変えるだけで、結果的に「今までになかったもの」になることだってあるんだから。それを繰り返すことが経験になっていくんですよ。
よく若い人に向かって「君たちには無限の可能性がある」なんて激励するやつ、いるでしょ。あるわけねーだろそんなもん、ってね。自分たちは何もできないくせに勝手なことを言う。それが若い人の芽をつぶしてる気がするんですよ。だから挫折したときに「なんでもできるって言われたのに」って落ち込んじゃう。「人間にはできることとできないことがあるんだよ」って、さっさと教えてあげた方がよっぽど気が楽になって、思い切り挑戦できるようになると思うんですよ。
さっさとできることとできないことを知って、その中で「自分の立ち位置は自分でみつけてね」って、若い人にはそう言うんです。
(取材・構成/浅野裕見子)