西武の渡辺GMやオリックスの福良GMは、監督のキャリアの延長上でGMのポジションに就いた感もある。MLBに比べて予算管理や編成上の複雑な問題の少ないNPBでは、知名度や実績から来る球団内外での人脈や影響力のほうが専門家としてのスキルよりもGMに重要な要素だと考えるならば、ある意味で妥当な人選ともいえる。FAでの移籍やトレードもMLBほど活発ではなく、編成担当としての腕の振るいどころが少ないこともそれを後押ししている。

 もっとも、NPBにもMLBタイプのGMが存在しないわけではない。王貞治氏が終身GMの肩書を持つソフトバンクで実質的なGMとしての球団編成を担う三笠杉彦球団統括本部長は東大卒で英国大学院にてMBAを取得。さらに元東大ラグビー部監督というキャリアの持ち主だ。ソフトバンクは今季まで日本シリーズを3連覇しており、チーム編成の見事さには誰もが一目を置いている。

 ドラフトやトレードで独自路線を行くことで知られる日本ハムでチーム統轄本部長兼GMの職にある吉村浩は、かつてMLBのタイガースで編成業務の修業を積んだ。その彼が中心となって構築したのが、定量的なデータで選手の能力や年俸などを数値化する評価システムの「ベースボール・オペレーション・システム(BOS)」だ。これで選手のパフォーマンスとコストのバランスを図り、金銭面での効率化や戦力としての過不足を見極めるなど、日本ハムならではの補強戦略に役立てている。

 プロ野球経験のない三笠、吉村の両氏の成功が、元大物選手や監督出身のGMばかりという従来の流れを変えるまでに至るかどうかはまだ分からない。球界的には素人な外様が編成トップに就くのをよしとしない風潮は根強く存在するからだ。だが元選手であっても石井GMのようにマネジメントを勉強してから編成業務に就くという例は増えるかもしれない。そうなれば各球団間の移籍が活発化するなど、球界全体に変化がもたらされる可能性もある。まずは石井GMが腕を振るって編成した楽天の来季の戦いぶりに注目してみよう。(文・杉山貴宏)