農林水産省の元事務次官・熊沢英昭被告(76歳)が、長男の英一郎さんを(44歳)殺害した事件で懲役6年(求刑懲役8年)の実刑判決が出された。全国不登校新聞の編集長・石井志昂さんは裁判で「これしか方法はない」とした熊沢被告の主張や、ネット上で「殺したのは英断」という声が上がっている現状に異議を唱える。
【画像】「いつ殺されるか」と思っていたという元ひきこもりの喜久井ヤシンさん
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またもや「ひきこもりは殺しても仕方がない」という声が聞こえてくるようになりました。農林水産省の元事務次官・熊沢英昭被告(76歳)が、長男の英一郎さん(44歳)殺害した事件の裁判で、その証言に注目が集まっているからです。熊沢英昭被告(76歳)は、長男からの家庭内暴力や、長女が悩み自殺したこと、長男が事件を起こすと公言したことなどを受け、「これしか方法はない」と妻に手紙を書き、長男を殺害したと証言しています。
それに対してネット上では「お父さんがかわいそう」「殺したのは英断」などの意見も見られます。この事件が起きた今年6月にも同じような反応が広がり、ひきこもりの当事者の間では「自分もいつ殺されるかわからない」という不安感が広がりました。
しかし、私は殺す以外の選択肢はあったはずだと思うわけです。事件の報道を聞くたびに、「いつ殺されるかわからない」「自分で死ぬしかない」と思っていたという元ひきこもりの喜久井ヤシンさん(ペンネーム・32歳)のことを思い出します。ひきこもりの人たちがどうして社会から孤立していくのか、親や家族を憎み、自殺や他殺を意識するのか。そして、その状態を変えたものは何だったのか。彼の経験から、改めて考えてみたいと思います。
喜久井さんの半生は壮絶でした。
はじまりは8歳のころ、学校の雰囲気が合わないなどをきっかけに不登校。中学生のころからは同級生との接触を避け、本格的にひきこもりを始めます。そこから20代半ばまで10年ほど断続的にひきこもっていました。