ある日突然、脱毛部分に気がついて悩む人も多い病気「円形脱毛症」。大人だけにできる病気ではありません。子どもにもできます。自分の子どもが円形脱毛症になったとき、親は原因を知って取り除いてあげたいと思うことが多いのではないでしょうか。好評発売中の『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、自身の診療経験をもとに語ります。
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現代の医学でも治らない病気は、いくつもあります。難病と呼ばれる疾患だけでなく、命には関わらずとも、つらく苦しい病気があります。
そのひとつが、円形脱毛症です。ある日突然、脱毛部分に気がついて悩む方も多い病気。円形脱毛症は治療をすれば完治することも多いですが、頭全体の毛が抜けてしまうタイプの脱毛症は難治の場合もあります。どんな治療を試してみても全く反応しない方もいます。
円形脱毛症は大人だけにできる病気ではありません。子どもにもできます。
例えば、自分のお子さんが円形脱毛症になった場合、「なんとしてでも治してあげたい」と思う方が多いのではないでしょうか。
今回の記事は、15年ほど前に診療した1人の円形脱毛症のお子さんとそのお父さんのお話です。なお、フィクションを交え、関係する方が読んでもわからないように事実を変更しています。
林千秋(はやしちあき。仮名)ちゃんは小学校3年生の女の子。1カ月くらい前から頭のてっぺんに円形脱毛症ができたため私の外来を受診しました。
「女の子ですし、なんとしてでも治したい」と、千秋ちゃんのお父さんは初対面ではっきりとおっしゃっていました。
「何がストレスなんでしょう?」
千秋ちゃんのお父さんはとても熱心に聞いてきました。
円形脱毛症の原因としてストレスが有名ですが、実はしっかりとしたエビデンスはありません。例えば、大きな自然災害が起こった後、被災した人には強いストレスがかかります。1999年、トルコで発生した大地震によって円形脱毛症の割合が変化したか調べた研究では、発症率に差がなかったとされています(J Dermatol, 2002; 29: 414―418.)。つまり、被災のストレスと脱毛症は関係ないということをこの論文は語っています。