クライミングの野中生萌 (C)朝日新聞社
クライミングの野中生萌 (C)朝日新聞社
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「ここでしっかり勝つというのが大きな目標だった」カタール・ドーハ最大の敷地面積を誇り、市民憩いの公園であるアスパイア・パーク。その一角に設けられたボルダリングウォールの横で、笑顔の野中生萌はそう話した。10月14日、ワールドビーチゲームズ・ボルダリング競技で、前日の準決勝をトップで通過した野中は、決勝でもただ一人、4つの課題を完登した。昨年のワールドカップ・シーズンチャンピオンが実力を見せた形となったが、首に掛けられた大きな金メダル以上に彼女には意味のある優勝となった。

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 ドーハで第1回大会が行われたワールドビーチゲームズ(10月11~16日)は、ANOC(国内オリンピック委員会連合)が主催するビーチ系スポーツの総合大会である。

 ボルダリング競技はビーチスポーツではなくアーバン(都市型)スポーツとして採用されたが、世界の強豪はエントリーして来なかった。出場選手も少なくフィールドがそれほど強くない大会となったが、野中は「だからこそ、優勝せずには帰れないとプレッシャーがあった」と言う。またナイトゲームで行われたものの、気温33度、湿度70%と高温多湿、屋外でのクライミングは、オリンピック同様の総合スポーツ大会の雰囲気も相まって「来年の東京に向け良い経験になる」とも話した。

 決勝は第1課題から難しいルートとなった。暑さと高湿で滑りやすく、ワールドカップとは異なる計時方法などもあり、決勝に進んだ6人のうち野中の前に登った5人はトップまでたどり着けなかった。野中も「登り出したらオブザベーションと感覚が違った」と戸惑ったが、冷静にすぐに修正。他の選手が苦労していたホールドも登り方を変えてクリアし、3度目のアテンプトで完登した。

 これで金メダルへのライバルと目されたペトラ・クリングラー(スイス)をリードすると、第3課題では「得意な形」であるダイナミックなムーブも見せ、他の追従を許さなかった。一撃(1回目の試技で完登)こそ第2課題のみではあったが、準決勝から合わせて8課題を全完登。彼女の良さが出たパーフェクトなクライミングだった。

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不安と葛藤が続いたシーズン