Aグループの人は左手で歯磨きをしたり文字を書いたり、Bグループの人は返事を「うん」ではなく「はい!」と礼儀正しく答えてみたり、といった具合です。
2週間後に様子をみてみると、彼らにとって怒りそうなことをしてみても、AとBのグループの人たちはあまり反応をしないようになっていました。Cグループの人たちは、なにもしていないので当然ですが、すぐにかっとなって怒鳴りました。
■「制御する」部分を鍛えると「怒鳴る」行為がおさまる
このように、「すぐ感情的になって行動してしまう」ことはトレーニングにより改善できるのです。さらにポイントなのは、その人たちが真正面から「怒鳴らないように耐え忍ぶ」というキツい訓練をしたわけではないという点です。
AとBの人たちには、単純に「今から自分は行動しようとしている」という点を意識し、その際に、「より難しいほうを選ぶ」という行為を続けてもらっただけなのです。
「歯磨きをしよう」と意識したら、「左手をつかってみよう」という、その程度。しかし、そうすることで「自分を制御する」部分の脳が鍛えられ、おかげで「すぐ怒鳴る」行為がおさまったのです。さらには、副産物として自己制御に関連した行動(部屋をちらかさない、健康のために運動をする、たばこなどの嗜好<しこう>品の量を減らす)が、とれるようになったのだとか。
親が子どもに対して、片づけをしないのでイライラして怒鳴ったり、大騒ぎをされてかっとなってたたいてしまったりすることは、子どもの行動を恐怖によって抑圧しているだけで、教育ではありません。
親の前では片づけをしても、他の場所では片づけなくていいと考えるだけでしょう。子どもが積極的に「片づけをしよう」「騒がないようにしよう」と思えるように導くのが教育で、怒鳴ることは根本的な解決にはならないのです。
さらに、頭に血がのぼったからといって、一度やってしまった行為はなかったことにはできないので、衝動的になることは、子どもの心に大きな傷をつけることにもなりかねません。子どもが「怒鳴る」「手を出す」ことを普通と思い、誰かに同様に接してしまう危険もでてきます。
育児の観点からみれば、親だけではなく子どもも同じ、というより子どものほうが大人よりも本能のままに動こうとしてしまう傾向があります。外から帰ってきて手も洗わずにすぐ目の前のお菓子を全部食べようとする、他の子が遊んでいるオモチャが楽しそうだから取ろうとするなど、「やりたい」と思ったことを、すぐに行動にうつしてしまいがちです。ですから、親だけではなく、子どもと一緒に訓練してみても損はありません。
■一瞬だけ考える時間をとり「難しいほうを選ぶ」