重大なアクシデントが起きたのは、10月1日のロッテ戦(千葉マリン)。2回に5点を失った野茂は、4回にも1死から堀幸一の中越え三塁打と西村徳文の右犠飛で1点を追加される。そして、2死無走者でマックスの打球がマウンドの野茂を襲った。

 咄嗟にグラブを差し出したが、鋭い打球は、そのグラブをかすめて野茂の右頭部を直撃(記録は投手強襲二塁打)。頭蓋骨陥没の疑いもあるという緊急事態だった。

 だが、病院で検査を受けた結果、軽度の頭蓋骨骨折で、頭蓋骨のつなぎ目にわずかな隙間が空いた程度。内出血や吐き気もなく、大事に至らなかったのは幸いだった。

 この時点で14勝の野茂は、野田浩司(オリックス)とともに工藤公康(西武)を1差で追っていたが、シーズン終了まで残り12試合。けがで投げられない期間を考えると、挽回はほぼ不可能に思われた。

 そんななか、野茂はわずか8日後、同9日のロッテ戦(藤井寺)で再びマウンドに上がり、8回途中まで3失点で工藤と並ぶ15勝目。16勝の野田に1差に迫る。

 さらに同14日のロッテ戦(千葉マリン)に中4日で先発。4対4の延長10回、光山のラッキーな捕前安打で挙げた決勝点を、その裏、守護神・赤堀元之が守り切り、16勝目。しかし、ライバル・野田も同じ日に17勝目を挙げ、再び1差をつけられた。

 そして、泣いても笑ってもシーズン最終戦、同17日の西武戦(西武)、中2日で志願先発した野茂は、2点リードの9回2死から同点を許すが、「やれるところまでやってみよう」と延長10回まで執念の続投。そんな姿に4対4の11回、味方打線が応える。代打・村上の2点タイムリーで勝ち越し、その裏を赤堀が3人で抑えてゲームセット。この瞬間、野茂は野田と並ぶ17勝を挙げ、奇跡とも言うべき4年連続最多勝を達成した。

 ふだんはクールな野茂も「これまでの年と違う。自分一人で勝った試合なんて、頭に浮かびません。今まで3年間とは違ううれしさがある」と感無量の面持ちだった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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