「まだ他のジャンプが上手くはまらない。本当は4回転を入れたいですが、入れることによって他を崩したくない」という試合前日の紀平のコメントは、オールラウンダーでありつつ大技習得を目指す道の険しさをうかがわせる。
ただ紀平がこの試合で、6分間練習で不安定だったトリプルアクセルを本番では2本とも成功させたことの意味は大きい。どんな調子でも試合では決められるようになったところに、苦しみながらも長年大技と向き合ってきた紀平の強さがある。試合後の記者会見で、紀平は4回転に対する決意を語った。
「怪我をしっかり治して、どんな挑戦でもできるよう、また練習でしっかり全力を出せるように、まずはコンディションを整えたい。北京オリンピックには必ず4回転を持っていけるように、練習をしっかりしていかないといけない」
17歳にして自らの現状を冷静に認識し、大技の習得を焦らない賢さこそ、北京五輪で金メダル獲得を目指す紀平の最大の武器となるかもしれない。(文・沢田聡子)
●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」