準々決勝の智弁和歌山戦は、8回を終わって4対8の劣勢も、9回2死から一挙8点の猛攻で大逆転に成功する。

 だが、この回、3番手の投手に代打を送り、主力投手を使いはたしていた帝京は、その裏、大ピンチを迎える。4番手が連続四球のあと、3ランを浴び、1点差でなおも無死一塁。この場面で、中学時代に投手経験のある杉谷が5番手として公式戦初登板。思いがけず、憧れの甲子園のマウンドに立った1年生が「よっしゃあ!」と張り切ったのは言うまでもない。

 ところが、初球の108キロカーブがすっぽ抜け、いきなり死球。たった1球で降板となった。しかも、直後に6番手が同点タイムリーを浴びたあと、押し出しのサヨナラ四球を許したため、杉谷はたった1球で敗戦投手に……。ちなみに智弁和歌山の勝利投手・松本利樹も1球勝利とあって、勝ったほうも負けたほうも1球の珍事となった。死球を与えた側と与えられた側の違いはあれど、「死球」「たった1球」「珍事」のキーワードつながりは、前記の珍死球の話とピッタリ一致しているという点でも興味深い。

 死球にまつわる珍プレーをもうひとつ。必死の死球アピールが認められなかった結果、打ち直しの打席で幸運の女神が微笑んだのが、15年6月24日のロッテ戦(旭川)だ。

 4対0とリードの日本ハムは4回1死無走者で杉谷が打席に立ったが、1ストライクから益田直也の2球目が右足つま先付近へ。当たったかどうか微妙ながら、杉谷は「痛っ!当たった!」と左足で飛び跳ねながら、死球をアピールした。

 だが、土山剛弘球審の判定は「ボール!」。それでも杉谷はめげることなく「当たった!」と言いつづける。かつての“グラウンドの詐欺師”達川光男(広島)を彷彿とさせるユーモラスなシーンに、スタンドのファンも腹を抱えて笑った。

 栗山英樹監督が確認のためにベンチから出てきたが、土山球審の説明に納得すると、「あんな変な顔して抗議しても、審判の判定も変わらないよ」と笑いをかみ殺しながら、あっさり引き揚げた。

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「神様が見てくれていたんだな」