ところで、「脳しんとう」はどんなメカニズムで起こるのでしょうか?

 脳は硬い頭蓋骨の中に、水の中に浮かんだような状態で収まっています。脳が衝撃で揺さぶられると、ちょうど豆腐を入れた容器を強く揺すったときに、容器が壊れなくても中の豆腐が崩れるのと同じように、脳細胞が傷ついてしまうことがあるのです。患者には一時的な脳機能障害の症状がみられますが、CT検査やMRI検査などの画像検査をしても、脳の損傷は検出されません。たとえ外側の、頭の皮膚の出血や頭蓋骨の骨折・陥没があっても、頭蓋骨の中にある大切な脳に傷がつかなければ、大きな問題にはいたりません。しかし、ひとたび脳の組織や血管が傷ついたりすれば重篤になることがあるため、医師による正しい診断が不可欠です。

 また、「セカンドインパクト症候群」というのも大きな問題となっています。すなわち、脳しんとうを起こした選手が、症状が取れないうちにプレーに復帰して続けて次の衝撃を受けると、急速に脳が腫れるなどして命に関わったり、深刻な後遺障害が残ったりするリスクが高まるものです。脳しんとうを起こしたことがある人は、再発しやすくなるともいわれています。さらに、脳しんとうを繰り返したことがあるアスリートは、年を経てから認知症やパーキンソン病、うつ病のリスクが高まることがあります。脳しんとうが生じた後は、すべての症状が治まり、医師から許可が出るまで、プレーを再開してはいけません。

■ビデオ判定システムで、試合中の脳しんとうを発見

 スポーツの試合では、その試合会場における医学的な問題が発生した場合に対応する医師として「マッチドクター」が控えています。それはスポーツドクターがおこなう、大事な仕事の一つです。

 ラグビーワールドカップでは、脳しんとうの疑いのある選手に対してのケアとチェックが徹底されています。2015年のイングランド大会以降、微妙なプレーなどの判定に利用されているビデオ判定システムTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)が、脳しんとうの判定にも利用されるようになりました。

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